施設園芸のPDCA~植物工場

「食の安全の観点と販売時に必要から」、「取引先からの要請」、「農場運営の工程管理における自社のレベルアップ」の為に『GAP(Good Agricultural Practice)導入』が施設運営における強みになり始めている。。

GAP導入のメリットは品質管理であり、農家は自信と安心をもって農産物を出荷できるようになる。最近ブロックチェーンに登場するethical(倫理的)のコンセプトを実体化したものであると言える。

出典:平成30年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

上記出典の同事業報告書(平成29年)大規模施設園芸及び植物工場の事例調査から『(有)育葉産業様(施設:太陽光型、品目:ミツバ、調査選定理由:生産管理)』の事例を参考にして「同じ作付面積でも農業所得に大きなバラツキ」を抑える具体的な取組を考察する。

以下2枚の資料は『メニュー:営農計画』(2)営農計画の事前調査の限界について(農業所得のバラツキが解明出来ない)より再掲示。

早速、ベストプラクティスとも言える有益な情報を開示された(有)育葉産業様の事例を見てみる。タイトルは以下になっている。

『ロボット化や先進的GAPの取組を通し、高効率で高品質なミツバを生産』

出典:平成29年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

■施設設備

鉄骨ガラス温室、水耕栽培設備はM式水耕製、その他に暖房機と炭酸ガス施用装置を導入。

■人件費削減策

『育苗や定植、移植』工程に自動化をすることで対応している。

特に定植後の高密度栽培パネルから、栽培後期の低密度栽培パネルへの移植作業は非常に労力をかかるとの事であり、『その工程を自動化する』事で人件費の削減と生産性の向上を実現している。

出典:平成29年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

尚、同事業報告書(平成29年)に記載されている栽培形態別コスト比率を下記にて示す。コスト構造に占める『人件費』の割合が高い事が確認できる。

出典:平成29年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

■生産管理における工夫

温室内の環境制御のシステムを自ら開発し、運用している。尚、以前の職場であった電機メーカーでのシステム構築の業務経験を生かしているとの事である。

環境制御用のシーケンサーを使用し、温室内外からの各種センサーから得られる、温度、養液EC・pH、風向、風速、日射、降雨量等のデータを管理用PCに蓄積し、それらのデータをもとに天窓・側窓の開閉や培養液制御等、一元的に自動制御している。

■ 栽培管理における工夫

播種から収穫までの栽培日数に関するデータを蓄積しており、それを用いて栽培日数を予測している。

また市況から逆算した出荷日・出荷量を合わせる事で、『収益を最大化』するための播種日や播種量を割り出している。

更に生産量の平準化・安定化を実現し、計画出荷も行っている。

尚、予測はExcelで行っており、その他にも農薬の散布実績なども記録・管理している。

■培養液管理

ECやpHを計測し、管理用のパソコンでグラフ表示しながら、追肥のタイミングや培養液調整の判断を行っている。

追肥操作も、管理用PCから遠隔で行っている。

出典:平成29年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

養液内の肥料濃度をもとに適切な培養液調整を行うように、ベストブレンド量的管理版という配合計算プログラムを大分県農林水産研究指導センターと共同開発し、利用している。

■JGAP認定取得(農業生産工程管理認証取得)

平成15年の農薬取締法改正に先立ち、残留農薬の分析を実施したことをきっかけに、JGAPを取得した。

一番の目的は、自分自身が安全なものを生産・販売していることの『根拠』を作るためである。

報告書によると、同社は従前より、根拠に基づく安全な生産に対して意識的に取り組んできた。

工程分析表の作成や、それによってリスクの見える化を行う等、GAP取得に向けた素地はあったと指摘している。

施設内でも衛生管理や、整理整頓にも以前から気を配っており、職員の意識付けにも取り組んでいる。

出典:平成29年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)
出典:平成29年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)
出典: 農業生産工程管理(GAP) の普及・拡大に向けて
平成28年4月  農林水産省 生産局  農業環境対策課

(注)GAPについて分かり易く解説したホームページ先にリンクを張ります http://gap.maff.go.jp/  (これから始めるGAP 農林水産省)

■エネルギー活用における特徴

現在のエネルギー源は電気と重油を活用している。

電気代は年間300万円~400万円程度で、重油代、ガソリン代で600万円~1,000万円程度である。

電力会社から送られてくる需要電力量からデマンド予測を行い、ピーク時には強制的にポンプを停止するようにすることで、デマンド値を下げ、電気料金を節約している。これらのシステムも自身で構築している。

■その他経営上の特徴

・販路は、ほぼ100%農協向けの出荷

・産地全体の出荷量や出荷単価

⇒過去の公開データをもとに、『単価の高い時期』に出荷量を増やすように計画生産する。収益を向上させている。

・予定出荷量や生産工程、安全管理、地域での害虫発生状況等に関する情報

⇒なるべく全ての市場関係者(せり人等)等に共有するようにしている。

⇒情報を公開し、リスク発生時の対応(虫発生時の代替え対応等)についても事前に情報共有しておく。

★ethical(倫理的)トークン発行の環境が既に出来ている(ブロックチェーン技術による価値顕在化のツールであるトークン発行)。(注:上記記述は報告書には記載されていないが、敢えて個人的に追記)

⇒流通側も安定した仕入れ管理ができるため、その分の付加価値を乗せた価格で買い取ってもらえると同報告書で記載されている。

・トレーサビリティの仕組み作り

⇒クレーム対応なども最小限の労力で対応できるようにしている。

・コストに関して

⇒人件費が4割強と最も高い割合を占めている。

⇒尚、人件費のの6~7割は出荷調整作業にかかっている。

■有限会社育葉産業様の基本情報は以下

出典:平成29年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

★ethical(倫理的)である事は個人、会社の潜在能力を大きく開花させる事をこの事例により確認出来る。デミング博士の教えを学んだ戦後の製造業の品質改善活動を施設園芸に取り入れ、教えを継承、実践されている事に深い感銘を受ける。

視点を変え、施設園芸業界の『事業採算』について①栽培実面積別決算及び②栽培開始年別決算を確認してみる。

①栽培実面積別決算

出典:平成30年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

同事業報告書によると『太陽光型』で2万㎡以上の面積がありながら赤字としている事業者は、ほとんどが3年以内の操業であり、安定的な栽培ができていない可能性が高いと指摘している。

また、面積に比例して設備投資額も大きくなることから、減価償却の負担も影響していると推測している。

出典:平成29年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

②栽培開始年別決算(減価償却費の負担が決算に影響を与えている事が分かる)

出典:平成30年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)

業界の成長性の観点から大規模施設園芸及び植物工場の施設数と推移についても確認してみよう。

出典:平成30年 次世代施設園芸地域展開促進事業 事業報告書(別冊1)
出典:農林水産省  次世代施設園芸の全国展開  平成26年7月

施設数については『太陽光型』は引き続き増加傾向が見られる。

業界全体は成長しており、この背景には、平成9年末の『農地制度改正』後に、企業の農業参入が大幅に増加した事もあると推測される。

同制度改正により企業が農業の担い手のひとつと位置付けられ、一定のルール下で農地賃貸による企業参入が自由化された。

出典:なぜ企業の農業参入は増加傾向が続くのか―地域に見る参入の構造と特徴ー
出典:なぜ企業の農業参入は増加傾向が続くのか―地域に見る参入の構造と特徴ー

大手も含めて農業に参入する企業は、内需産業が中心であると指摘している。( なぜ企業の農業参入は増加傾向が続くのか―地域に見る参入の構造と特徴ーより )

これらの産業は市場飽和に直面しており、低成長下における多業化の一環として捉えられている。

制度改正による参入障壁は低下したが、『農業技術取得の難しさ』、『安定生産が容易では無い』等の営農リスク要因が意識され始め、企業の栽培対象は機械化しやすい作物や栽培方法に関心が移り、持続可能な植物工場の運営が可能かどうかのフィジビリティスタディも行われていると思われるが、依然農業の変動リスクにさらされている事には変わりない。

前記 ②栽培開始年別決算からも分かるように事業運営が『軌道に乗る』までに時間を要する事が、経営上の大きな課題として浮かび上がっている。

この課題解決として

1.現状の枠組み:栽培しやすい農産物で『安定生産体制』を早期に立ち上げる。

2.新たな枠組みを追加:太陽光発電設備による自家発電・自家消費と売電収入

3.両者の枠組みを一体化させ、電気エネルギー消費を自己循環型に変更し、一部売電収入が事業につきものの変動リスクのバッファー機能として担わせる。

具体的な枠組みは、施設園芸設備と太陽光発電設備の組合せである。つまり『営農型太陽光発電設備施設』に進化させる事である。

( 施設園芸が『営農型太陽光発電設備を兼ね備えた 施設 』に進化した事例 )
出典:一般社団法人ソーラーシェアリング協会
注:画像データの利用は上記協会様より事前承諾済み

農業従事者の平均年齢は67歳と高齢化が進む中、 平成9年末の『農地制度改正』 を呼び水にして企業が農業分野に参入し易くなったが、安定経営が課題になっており、持続可能な農業を実現していく上で、行政による制度設計もされている。

出典:農林水産省  平成30年度 強い農業づくりの支援に係る関係通知について
強い農業・担い手づくり総合支援交付金PR版

今年6月の成長戦略閣議決定で明示された「令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」にて『営農型太陽光発電の実証』、『 営農型太陽光発電の全国的な展開』が明記された。

尚、未来投資戦略2018に『営農型太陽光発電を促進』と明記されていた。

出典:成長戦略閣議決定(令和元年6月21日)
令和元年度革新的事業活動に関する実行計画

一方、民間サイドの最近の取組はどうか。

電気エネルギーも消費する(ポンプ等の稼働)施設園芸栽培において、太陽光発電のエネルギーの利用と新規就農者でも実績が作りやすい栽培手法とを融合させる動きがある。

昼間は営農型太陽光発電施設下での太陽光発電の自家消費、併設した営農型太陽光発電施設での売電収入で夜間の電気料金を賄っており、施設園芸の特徴(温度、湿度等、作物に適した栽培環境を整える)を生かした単位面積当たりの収穫量の高さ(露地栽培に比べ)により、収量アップとコスト削減を目指している。

その一例を紹介する。(画像をクリックすると動画のデータ元にリンクします)

出典:一般社団法人ソーラーシェアリング協会
注:画像データの利用は上記協会様より事前承諾済み

これにより農業の収益性をより高める事が可能になる環境作りをされている。

上記の詳細な情報につきましては、一般社団法人ソーラーシェアリング協会様のURLを記載しておきます。

https://solar-sharing.org/

尚、上記Webサイトにて『ソーラーシェアリング(=営農型太陽光発電設備)とは?』に関する分かりやすい説明がされた動画(施設園芸事例を含む)も用意されています。