③-3.PD-1阻害療法がん治療のパラダイムシフト~がん免疫治療の新展開 – 本庶 佑 – 第8回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム(2022年2月13日)の動画より転記/高齢化対策~

がん免疫治療の新展開 – 本庶 佑 – 第8回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム(2022年2月13日)

ホールゲノムシークエンスによる沢山のがん種の遺伝子配列を決定するプロジェクトが進んだ

・シークエンスで明になった事は

大変な量の遺伝子変異が蓄積し、

⇒がんというものは元々は自分と同じ細胞であったが

⇒遺伝子変異を積み重ねることによって

⇒自分では無いものに変わってしまう。

免疫系は

自分では無いと認識して攻撃をする

・タンパク質に現れる変異の数をプロット(下図)しその平均値であるが

通常は対数なのでゼロ

これが1,000倍とか10,000倍の頻度で違っている。

これだけ違うと免疫系は

自分ではないと認識して攻撃を可能にする。

出典:がん免疫治療の新展開 – 本庶 佑 – 第8回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム

出典:がん免疫治療の新展開

がんというのは皆一つの塊が全部同じ細胞ではなくて

がん種の端の左と右では全然違う遺伝子変異を持っている。

従って、この故に抗がん剤が必ずしも成功しない

・主のがん抗原を叩いても

⇒別の抗原が出てくる

出典:がん免疫治療の新展開

・幸いなことにリンパ球は全ての抗原を攻撃できる

免疫療法の大きなアドバンテージが有るが

決して万能ではない。

ヒトの免疫力というのは

⇒今回のコロナウイルスで明らかになったように

千差万別である。

⇒無症状のような人もいれば、重い肺炎を起こして亡くなりかける人もいる。

同じようにがん免疫療法が有効にがんを攻撃する人もいれば、そうでない人もいる。

これをどうやって見分けることができるか?

まだ研究途上である

現在、概ね30%の患者に非常に有効ということになっているが

もっと効率を上げていく必要がある。

出典:がん免疫治療の新展開

効率を上げる方法

・現在世界中で何千という治験が行われている。

PD-1+何かの組合せで治験が行われている

最大のパートナーはCTLA4(別の免疫のブレーキ)

⇒化学療法、放射線療法との組合せ。

⇒これらがペアとなっている。

がんはどうして出来るのか?

がんは年をとって出来る病気である。

(例外として先天性のがんや白血病のように若い人に起きるがんもあるが)

ほとんどのがんは年齢が高くになるに従い増え、それと共に免疫の機能が低下する。

理由は

⇒リンパ球の内の

非リンパ球というがん細胞を殺す機能がを持った細胞を作る組織である

胸腺という組織が

退縮していく事が原因である。

出典:がん免疫治療の新展開

多くの免疫学の研究は若いマウスを使った研究である。

⇒高齢のマウスを使う研究者が少ないのは

⇒マウスを1年も何もせずに餌だけをやり続けるのは辛抱と同時にお金がかかる。

若いマウスを使うと

腫瘍を植え付けてもPD-1抗体は非常に良く効き、腫瘍の増殖を抑える事が出来る

同じ試料のPD-1抗体を高齢のマウスに植え付けるとほとんど効かない

・抗体が悪いのか?

そうではない。

遺伝子を破壊してブレーキが付いていないようなマウスで実施しても

若いマウスでは腫瘍が増えない

⇒しかし高齢者では腫瘍がどんどん増える。

出典:がん免疫治療の新展開

この理由に関して

⇒最初のリンパ球が活性化を受けて

腫瘍を殺す機能を持った細胞に分化して

最初のところが異常にブロックされている事が分かってきた。

⇒ここの刺激が弱い

若いマウスで受ける刺激ぐらいでは

分化が進まないという事が分かった

出典:がん免疫治療の新展開

マウスの中に強いシグナルを同時に加えてやる

⇒これは人の細胞を加えてやる

ダウディ細胞(Daudi)というのは人の細胞である

高齢マウスでもPD-1抗体が効くようになる

出典:がん免疫治療の新展開

・黒マウスに白マウスの細胞を入れる

異種ではなくて、他人の細胞を入れる高齢マウスでも

同じような効果ができた

最初のステップに強い抗原刺激を与える事によって

上手く免疫機能を促進できる事がわかってきた

⇒現在、人において行えるように京大の付属病院と共同して人への応用を図っている。

出典:がん免疫治療の新展開