■■光合成と細胞呼吸の化学式
・化学式の左側が反応物、右側が生成物。
◆同化(光合成):無機物から有機物を『合成する』反応。
エネルギーを吸収する。例:光合成(グルコースC₆H₁₂O₆の合成反応)
6CO₂ +12H₂O →C₆H₁₂O₆ + 6O₂ + 6H₂O
二酸化炭素×6+水×12+光のエネルギー →グルコース+酸素×6+水6×6
◆異化(身体の細胞呼吸):有機物を無機物へ『分解する』反応。
エネルギーを放出する。例:呼吸(グルコースC₆H₁₂O₆の分解反応)
C₆H₁₂O₆ + 6O₂ +6H₂O →6CO₂ +12H₂O +38ATP
グルコース+酸素×6+水×6→二酸化炭素×6+水×6+エネルギー(最大38ATP)
この2の式を見ると、光合成の生成物が身体の細胞呼吸の反応物になっていて、身体の細胞呼吸の生成物は光合成の反応物なっている。
よって光合成と身体の細胞呼吸がバランスよく行われている限り、物資は円滑に循環する。
その間に地球上に降り注ぐ太陽の光エネルギーは『ATP』の高エネルギーリン酸結合という化学エネルギーに変換され、それはやがて糖(グルコース)になり、デンプンとなり、最終的には複雑な構造をもつ物質にまで合成されていく。
太陽光のエネルギーを効率良く圃場に蓄積させ、その蓄積物を再生可能な範囲で『作物』として収穫する。
そういう自然の摂理をうまく活かした仕組みが農業である。
■■身体の細胞呼吸の目的とその仕組み
◆目的:グルコースを異化してエネルギーを作る
C₆H₁₂O₆ + 6O₂ +6H₂O →6CO₂ +12H₂O +38ATP
グルコース+酸素×6+水×6→二酸化炭素×6+水×6+エネルギー(最大38ATP)
◆仕組み:
呼吸の過程は、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系に分けられ、各過程で様々な酵素が働き、ATPが合成される。
酵素はそれぞれ決まった物資としか反応しない。
酵素が作用する相手の物資を基質といい、このような決まった物資としか反応しない性質を基質特異性という。
酵素が基質特異性を示すのは、酵素にはそれぞれ特有の立体的な構造をもつ活性部位と呼ばれる部位があり、この活性部位に適合する物質(基質)だけが酵素と結合して酵素-基質複合体をつくって、酵素の作用を受ける為である。
①解糖系
・細胞呼吸の場:細胞質基質
・1分子のグルコース(C₆H₁₂O₆)を2分子のピルビン酸(C₃H₄O₃)に分解(異化)し、2ATPと2NADH₂を生成。
この過程は何種類もの酵素によって進められる反応で、解糖系と呼ぼれる。
・異化で放出されたエネルギーの一部がATPとして取り出される。
・脱水素酵素によってグルコースから水素が奪われ、補酵素のNADに渡される。
②クエン酸回路(TCA回路)
・呼吸の場:ミトコンドリア基質(マトリックス)
・2分子のピルビン酸が分解し、2ATP、6CO₂、8NADH₂、2FADH₂を生成。
・脱水素酵素、脱炭酸酵素を使用。
③電子伝達系
・呼吸の場:ミトコンドリア内膜
・ATP合成酵素によるATP合成。
⇒解糖系とクエン酸回路で生じた高いエネルギーをもつ電子が、ミトコンドリアのクリステの内膜を通るときに34ATPが生成される。
⇒10NADH₂由来:30ADP+30Pi→30ATP
⇒2FADH₂由来:4ADP+4Pi→4ATP
・電子を最終的に受け入れる物資:O₂(酸素)⇒2H+2e+1/2O₂→H₂O
最終的に電子は水素原子に戻り、酸素(O₂)と結合して水になる。
◆生体内のエネルギーの流れ
・生きていくためにエネルギー(=ATP)が必要。
・化学反応を利用してエネルギーを取り出したり、消費したりしている。
⇒光合成:光エネルギーからATPを合成して有機物(C₆H₁₂O₆)を合成。
6CO₂ +12H₂O →C₆H₁₂O₆ + 6O₂ + 6H₂O
⇒呼吸:酸素(O₂)を用いて有機物(C₆H₁₂O₆)を分解し、そのエネルギーでATPを合成。
C₆H₁₂O₆ + 6O₂ +6H₂O →6CO₂ +12H₂O +38ATP
◆◆詳細内容
①解糖系
解糖系では、グルコース(C₆H₁₂O₆)1分子当り、2分子のATPが使われ、4分子のATPが新たに作られるため、差し引き2分子のATPが合成される。
グルコース(C₆H₁₂O₆)は、まずATP2分子によってリン酸化されフルクトース二リン酸(C6化合物)になる。
フルクトース二リン酸が二分して、グリセルアルデヒドリン酸(C3化合物)の二分子ができる。
グリセルアルデヒドリン酸が、いくつかの反応を経て、ピルビン酸(C₃H₄O₃)になる。
この間の反応で、電子e–とプロトンH+が生じて、補酵素NADに渡されNADHになる。
ここで生じたNADHはミトコンドリアに入り、あとの電子伝達系で利用される。
解糖系 C₆H₁₂O₆+2NAD⁺+2ADP+2Pi→2C₃H₄O₃+2H₂O+2NADH+2H⁺ +2ATP
・解糖系では、2分子のATPが消費され、4分子のATPが生成するので、正味2分子のATPが産出される。
②クエン酸回路(TCA回路)
解糖系で生じたピルビン酸(C₃H₄O₃)は、ミトコンドリアのマトリックスに運ばれ、クエン酸回路と呼ばれる経路に入る(図9)。
脱炭酸反応によって、ピルビン酸(C₃H₄O₃)の3個の炭素のうち、1つが二酸化炭素として取り除かれる(図①)。
また、生じた化合物は、酸化還元酵素の働きによって酸化され、この時、NADHが生じる(図②)。
こうしてできた化合物(C₂)は、コエンザイムA(CoA)と結合してアセチルCoA(C₂)となる(図③)
次に、アセチルCoA(C₂)のアセチル基は、オキサロ酢酸(C₄)と結合して、クエン酸(C₆)となる(図④)。
クエン酸は、何段階もの反応を経てオキサロ酢酸へ戻る過程で、酸化還元酵素の働きによって酸化されると共に、NADHやFADH₂を生じる。
この際に、脱炭酸反応によって二酸化炭素が放出される(図⑤)。
最終的に、クエン酸回路では、基質レベルのリン酸化によって、ピルビン酸(C₃H₄O₃)2分子当り、2分子のATPが生じる。
また、6分子のCO₂、8分子のNADHと8H⁺、及び2分子のFADH₂が生じる。
クエン酸回路 2C₃H₄O₃+4H₂O+2ADP+2H₃PO₄+8NAD⁺+2FAD→6CO₂+2ATP+8NADH+8H⁺+2FADH₂
③電子伝達系
解糖系とクエン酸回路で生じたNADHやFADH₂から、電子がミトコンドリアの内膜にある電子伝達系に渡される(図10)
電子伝達系に渡された電子は、内膜に埋め込まれた複数のタンパク質複合体の間を受け渡される(図①)。
この時放出されるエネルギーによって、水素イオン(H⁺)がミトコンドリアのマトリックス側から外膜と内膜の間(膜間)に輸送される(図②)
すると、膜間側の水素イオン(H⁺)濃度は高く、逆にマトリックス側の水素イオン(H⁺)濃度は低くなる。そして、水素イオン(H⁺)は濃度勾配に従って、ATP合成酵素を通ってマトリックス側に戻る(図③)。
この時、ATP合成酵素はADPとリン酸からATPを合成する(図④)。
電子伝達系では、グルコース(C₆H₁₂O₆)1分子当り最大34分子のATPが合成される。
このように、NADHなどが酸化される過程でATPがつくられる反応を酸化的リン酸化という。
また、電子伝達系を流れた電子は、最終的に酸素と結合し(酸素を還元し)、水(H₂O)を生じる。
電子伝達系
■■全体の反応
1分子のグルコース(C₆H₁₂O₆)が呼吸によって分解された場合、
解糖系で2分子、クエン酸回路で2分子、電子伝達系で最大34分子のATPが合成される(合計で最大38分子)。
グルコース(C₆H₁₂O₆)が基質となる呼吸の反応は次のように表される。
◆◆呼吸と光合成の共通性
呼吸も光合成も、その過程で『電子伝達系』が働き、ATPが合成される。
電子が電子伝達系を流れると、
呼吸では、ミトコンドリアのマトリックス側から内膜と外膜の間(膜間)に水素イオン(H⁺)が輸送され、
光合成では、葉緑体のストロマからチラコイドの内側に水素イオン(H⁺)が輸送される。
結果として、両者共、膜を隔てた水素イオン(H⁺)の濃度勾配が作られる。
また、ATP合成酵素がミトコンドリアでは内側に、葉緑体ではチラコイド膜に存在しており、両者共、水素イオン(H⁺)が濃度勾配に従ってATP合成酵素を通って移動する時にATPが合成される。
呼吸と光合成は、同じ先祖生物の代謝系から進化したもので、あるものは呼吸の電子伝達系、あるものは光合成の電子伝達系に進化したと考えられる。