◆プロセスの成熟度とは
農産物の生産工程と改善活動(PDCA)の実態を観察し、レベルを評価する。
■改善活動の実態を確認する手立てとしてプロセス成熟度モデルで眺めてみる。
下図はソフトウェア開発のプロジェクト管理手法の一つであるCMMモデルである。
農産物の各生産工程毎により成熟度のバラツキが有るのは自然であるが、個人、組織が次に進むべき指針として確認出来る。
但し、組織間で『合意』できるかどうかは置かれた環境により異なってくる。
この成熟度モデルで(有)育葉産業様事例(施設園芸とPDCA~植物工場)からどのレベルで運営されているかを確認してみる。
詳細内容は既にメニュー『施設園芸のPDCA~植物工場』で記載済みであるので、今回は成熟度レベル4(管理されたレベル)、レベル5(最適化するレベル)を再掲示する。
■成熟度レベル4.管理されたレベル
■生産管理における工夫
温室内の環境制御のシステムを自ら開発し、運用している。
環境制御用のシーケンサーを使用し、温室内外からの各種センサーから得られる、温度、養液EC・pH、風向、風速、日射、降雨量等のデータを管理用PCに蓄積し、それらのデータをもとに天窓・側窓の開閉や培養液制御等、一元的に自動制御している。
■ 栽培管理における工夫
播種から収穫までの栽培日数に関するデータを蓄積しており、それを用いて栽培日数を予測している。
また市況から逆算した出荷日・出荷量を合わせる事で、『収益を最大化』するための播種日や播種量を割り出している。
更に生産量の平準化・安定化を実現し、計画出荷も行っている。
尚、予測はExcelで行っており、その他にも農薬の散布実績なども記録・管理している。(成熟度レベル5(最適化するレベル)に相当する)
■培養液管理
ECやpHを計測し、管理用のパソコンでグラフ表示しながら、追肥のタイミングや培養液調整の判断を行っている。
追肥操作も、管理用PCから遠隔で行っている。
養液内の肥料濃度をもとに適切な培養液調整を行うように、ベストブレンド量的管理版という配合計算プログラムを大分県農林水産研究指導センターと共同開発し、利用している。 (成熟度レベル5(最適化するレベル)に相当する)
■JGAP認定取得(農業生産工程管理認証取得)
平成15年の農薬取締法改正に先立ち、残留農薬の分析を実施したことをきっかけに、JGAPを取得した。
一番の目的は、自分自身が安全なものを生産・販売していることの『根拠』を作るためである。
報告書によると、同社は従前より、根拠に基づく安全な生産に対して意識的に取り組んできた。
工程分析表の作成や、それによってリスクの見える化を行う等、GAP取得に向けた素地はあったと指摘している。
施設内でも衛生管理や、整理整頓にも以前から気を配っており、職員の意識付けにも取り組んでいる。
■エネルギー活用における特徴
現在のエネルギー源は電気と重油を活用している。
電気代は年間300万円~400万円程度で、重油代、ガソリン代で600万円~1,000万円程度である。
電力会社から送られてくる需要電力量からデマンド予測を行い、ピーク時には強制的にポンプを停止するようにすることで、デマンド値を下げ、電気料金を節約している。これらのシステムも自身で構築している。
■その他経営上の特徴
・販路は、ほぼ100%農協向けの出荷
・産地全体の出荷量や出荷単価
⇒過去の公開データをもとに、『単価の高い時期』に出荷量を増やすように計画生産する。収益を向上させている。
・コストに関して
⇒クレーム対応なども最小限の労力で対応できるようにしている。
⇒人件費が4割強と最も高い割合を占めている。
⇒尚、人件費のの6~7割は出荷調整作業にかかっている。
■成熟度レベル5.最適化するレベル
■培養液管理
養液内の肥料濃度をもとに適切な培養液調整を行うように、ベストブレンド量的管理版という配合計算プログラムを大分県農林水産研究指導センターと共同開発し、利用している。
■ 栽培管理における工夫
尚、予測はExcelで行っており、その他にも農薬の散布実績なども記録・管理している。
■その他経営上の特徴
・予定出荷量や生産工程、安全管理、地域での害虫発生状況等に関する情報
⇒なるべく全ての市場関係者(せり人等)等に共有するようにしている。
⇒情報を公開し、リスク発生時の対応(虫発生時の代替え対応等)についても事前に情報共有しておく。
⇒流通側も安定した仕入れ管理ができるため、その分の付加価値を乗せた価格で買い取ってもらえると同報告書で記載されている。
・トレーサビリティの仕組み作り
⇒クレーム対応なども最小限の労力で対応できるようにしている。
以上の情報公開によりプロセスの成熟度レベルは『4.管理されたレベル』を達成している事が観察できる。一部工程では成熟度レベル5も達成している。
GAP認証取得=実施の一番の目的は、
自分自身が安全なものを生産・販売していることの『根拠』を作るためであると述べられている。
★ethical(倫理的)な取組みは、プロセス成熟度を高めていく原動力になっていると考える。
■GAPは製造業のQC活動(終わりなき改善活動)と同じ活動であると言える。
ここでは農業を営む観点から重要な項目を記載していく。
最初に日本の食品は安全か?
残留農薬以外にも事前に想定される項目として以下が挙げられている。
★ethical(倫理的)な態度で取組まないと、潜在的ではあるが加害者になるリスクが発生する。
★ ethical(倫理的)な態度で取組めば、個人、組織の潜在能力が大きく開花する事は『施設園芸のPDCA~植物工場』で取り上げた(有)育葉産業様の事例で容易に理解出来る。
■GAP実施活動により生み出される価値は?
■終わりなき改善活動の基本スタイル:PDCA(Plan-Do-Check-Action)
■GAPで取組む5つの柱(これから始めるGAPより)
1. 食品安全
環境由来の重金属やかび毒等による汚染を防止・低減する対策、農薬の適正な保管・使用、作業者自身の健康・衛生管理(病原微生物による農産物汚染防止)、農機具等の安全な保管・取り扱い、異物の混入防止、収穫した農作物の保管方法など、食品の安全を保つためのルール作りを行い、実施します。
【効果】
対策や作業内容を細かく文章に落とし込むことによって、問題の発見や、どこにリスクが潜んでいるかが見えてきます。リスクはゼロにはできませんが、合理的に実行可能な範囲で減らす必要があります 。
2. 環境保全
農薬による環境汚染の防止、適切な土壌管理、正しい廃棄物処理方法・排水処理方法、施設・機械等の使用時の不必要・非効率なエネルギー消費の節減、有害鳥獣よる被害防止策の作成など、農場および周辺の環境の安全を守るためのルール作りを行い、実施します。
【効果】
土壌診断等により土壌の状態を把握でき、適切な肥料、量などを知ることができ、無駄な肥料の使用による環境汚染も抑止できます。将来も継続して使用できる土壌や環境を目指した改善により、永続的な農業生産を未来にもたらすことができます。
3. 労働安全
農業分野における事故は、ときに死に至る危険性があります。危険な作業の把握、安全に作業を行うための服装や保護具着用、機械等の適正な使用、燃料の保管方法、警告標識の重要性、応急処置訓練講習会の受講など、労働者の安全確保のためのルール作りを行い、実施します。
【効果】
作業時の事故を減らすことができます。労働者は以前より安全な環境で作業を行うことができ、ストレスが軽減され、作業効率が上がります。
4. 人権保護
休憩場所・休憩時間の確保、性別・国籍・出身地・宗教による差別行為の禁止、過剰労働の軽減、雇用契約書の締結、就業規則の作成、社会保険・労災保険への加入など、農業現場従事者の基本的人権を守るためのルール作りを行い、実施します。
【効果】
労働者間の関係が改善されます。コミュニケーションも活発になり、よりよい人間関係が築けます。
農場経営者と従業員との関係も改善されます。よりよい労働環境は生産性の向上にもつながります。
5. 農場経営管理
農場マップの作成、指揮命令系統の確立、教育訓練の実施、作業・活動の記録、運営上必要な情報の記録、外部委託者の監視、クレーム対応の手順と記録など、農場経営にとって必要なルール作りを行い、実施します。
【効果】
さまざまな記録を保管することによって、記録が根拠書類としての価値を持ちます。何らかのトラブル等が起こった場合でも記録が改善ポイントを示唆してくれます。
農場経営者自らが開発した技術やノウハウを、次世代につなげることができます。