■『中論』が批判する諸思想体系
・『中論』は論争の書である。
⇒インドにおいてナーガールジュナの当時にすでに成立していた諸思想体系を眼前においてこれを攻撃し批判している。
⇒『中論』を読むと、韻文の大部分は攻撃的な口調で書かれていることに気がつく。
⇒では『中論』においてどのような諸思想体系が批判され攻撃されているのであろうか。
⇒これは相当重要な問題である。
⇒相手の思想をどのように理解するかによって『中論』の理解にも差異が生じてくる。
⇒相手の思想を正しく理解することは、やがて『中論』を正しく理解することとなろう。
・その手引きとして嘉祥大師吉蔵のいうところを検討しよう。
⇒「三論(『中論』『百論』『十二門論』という三書)の斥するところは、略していうに四つの宗を弁ず。
⇒〔第〕一に外道(げどう)を摧(くじ)き、
⇒〔第〕二に毘曇(びどん:小乗仏教の哲学者)を折し、
⇒〔第〕三に『成実(じょうじつ)論』を排し、
⇒〔第〕四に大執(大乗仏教における執着)を呵(か)す(叱りつける)」
⇒(『三論玄義』三枚左。なお『中論疏(ちゅうろんしょ)』54ページ上も大体同じことをいう)。
⇒このうち、始めの一つは仏教外(外道)のものであり、後の三つは仏教内のものである。
⇒しかしながら『中論』は果たして吉蔵のいうように、これらを予想して排斥しているのであろうか。
■吉蔵の分類による検討
・まず「〔第〕一に外道を摧(くじ)く」の意味を考えよう。
⇒吉蔵は「外道」という語の中に、インドの仏教外の諸思想とともに中国本来の思想を含めているが、
⇒それはおそらく『中論』の根本思想に立脚するならば中国の伝統思想といえども当然排斥せねばならぬ、という意味であろう。
⇒『中論』が書かれた時代のインドでは中国思想を予想してはいないであろうから、ここでは中国伝統思想との関係は問題にする必要はない。
・「〔第〕三に成実を排す」というが、『成実論』の著者ハリヴァルマン(詞梨跋摩:かりばつま)は大体紀元250-350年ころの人であるといわれているし、『成実論』はナーガールジュナよりも後世の著作であることは疑いない。
⇒このことは吉蔵もすでに気づいていた。
⇒しかしながら『中論』は『成実論』を論破していると主張する理由は、
⇒前に中国思想を排斥するといった場合と同様に、『中論』の所説は絶対的真理であるから、
⇒それによれば、当然『成実論』の説も排斥されねばならないというのであろう。
⇒吉蔵以前に中国で『成実論』が盛んに研究され多くの学者によって大乗であるとみなされていたから、これを排斥してこのようにいったのである。
⇒故に『中論』が実際に排斥した相手の思想を考察するにあたって『成実論』は排斥してさしつかえないが、
⇒ただし『成実論』の淵源となる思想はナーガールジュナ以前に存在していたに違いないから、
⇒ナーガールジュナもそれを眼中においていたのであろう。
⇒これらはおそらく経部の系統の思想であろうといわれている。
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