肥料に依存しない特別な土壌して知られている世界3大穀倉地帯に広がる土壌は『チェルノーゼム(黒土)』である。
この土壌地帯は、①黒海からウクライナのチェルノブイリ辺り、 ②北アメリカの五大湖近辺から南北に貫くプレーリー、③南アメリカのアルゼンチンにあるパンパに広がっている。
下図(図1 世界の土壌図)では緑色部が該当する。
国連食糧農業機関(FAO)の土壌分類では32種類に分類されている。
その肥沃度を腐植、粘土の量、酸性度に基づいて格付けしている(Woolf et al., 2010)。
穀倉地帯のチェルノーゼム(黒土)でもっとも高い。
黄土高原の粘土集積土壌、デカン高原(インド)のひび割れ粘土質土壌も肥沃である。(図1 青色部)
これらの半乾燥地の土壌は風化程度が小さいために栄養分を多く含み、土壌pHは中性に近い。
尚、暖温帯および熱帯地域には強度に風化した強風化赤黄色土、
地質の古い南アメリカ大陸とアフリカ大陸には鉄・アルミニウム酸化物の残留したオキシソルが分布する。
いずれも腐植が乏しく、酸性であるために肥沃度は低い。
日本の山地の若手土壌、台地の黒ぼく土(火山灰土壌)、低地の未熟土はいずれも腐植や粘土を豊富に含むが、湿潤地では土壌が酸性になりやすいために、肥沃度は中程度の評価になる。
以上、捉えどころが難しい土壌特性を区別する際に『気候の影響』を評価軸(実態を多面的な視点で評価する。例として円柱として捉えるのではなく多角柱で評価する)の一つとして導入する。
具体的には『成帯土壌』である。これは『気候帯』とリンクして帯状に分布する土壌である。
『気候に影響される』というのは、その土地の降水量や気候によって土壌の特性が違う。
例えば、雨が降らなければ砂漠になる。雨が降りすぎると土壌に含まれる各種栄養類が流されて、やせた土地になる。例えば日本の黒ぼく土。
成帯土壌を大きく3つに分類する。
①湿潤土壌:熱帯や冷帯に分布し、『酸性』を呈する。
熱帯の土壌ラトソルは地表面に酸化した金属が集積する赤色の土壌。
冷帯の土壌ポドゾルは色素が溶脱された灰白色の土壌。 酸性が強い土壌であり、農業に向かないという特徴がある。
いずれも肥沃度がやせている。こうした土壌では農作物の栽培が難しいため、肥料を与えるなどの工夫が必要である。
熱帯地帯で農業をする伝統的な方法としての焼畑農業がある。これは自生している植物を焼き払い、残った灰を肥料にする方法である。
②半乾燥土壌:ステップとその周辺地域に分布し、『弱アルカリ性』を呈する。
腐食が豊かで、肥沃である。
■ウクライナの『チェルノーゼム』は肥沃な土壌
ロシア平原~ウクライナなどに分布する『黒色土』をチェルノーゼムと言う。チェルノーゼムの分布は乾燥気候と湿潤気候の境界に分布するため、ステップ気候(BS)や西海洋性気候(Cfb)あるいは冷帯湿潤気候(Df)の地域などでみられる。要は栗色土が分布する地域より降水量の多い地域にチェルノーゼムは分布している。
チェルノーゼムが分布する地域では春に1年草の草が一斉に生え、夏に乾燥し、秋に一気冷え、植物が枯れてしまう。それが腐って肥料となる。また雨が少ないため、土壌の栄養分が流れ出ることがない。
そのため、腐敗した土壌が積もりに積もってできた土壌は非常に栄養分が高く、黒色になる。ここでは肥料を与えなくても農作物の栽培が可能な土壌となる。
■北アメリカのプレーリー土は肥沃な土壌
プレーリー土は北アメリカのやや乾燥した地域に分布する黒色の肥沃土。プレーリー土が肥沃な理由はチェルノーゼムとほとんど同様である。
ただ、プレーリー土が分布する地域ではチェルノーゼム分布地より若干降水量が多い。そのため、栄養分が流されるため肥沃度はチェルノーゼムの方が大きくなる。
また、チェルノーゼムでは乾燥が強く塩分が地表に集積しているが、プレーリー土では雨量が多いため、塩分が水に溶けて流される。そのため、チェルノーゼムよりアルカリ性が弱い土壌となる。
③乾燥土壌:乾燥地域に分布し、『アルカリ性』を呈する。
砂漠地帯では空気が乾燥しているため、土壌中の水分が地表に集まり、蒸発する。このとき、水分は蒸発して空気中へと出ていくが、塩分は取り残される。
例えば、食塩水を加熱すると食塩の結晶ができるように、塩分は空気中へ逃げることはない。そのため、砂漠の地表には塩分が集まり、アルカリ性の土壌になる。
砂漠土は塩基性が強くやせている 。
基本的に、アルカリ性の土壌では植物を育てることが難しいため、農業は行われないが、
国土の大半が乾燥地帯で占めるイスラエルで開発された『点滴灌漑農法』は食料自給率向上の成果を生み出している。 尚、イスラエルの食料自給率は90%である。
点滴灌漑(英: drip irrigation または trickle irrigation)とは、配水管、チューブやエミッタ、弁などからなる施設を用い、土壌表面や根群域に直接ゆっくり灌漑水を与えることにより、水や肥料の消費量を最小限にする灌漑方式であり、トリクル灌漑やマイクロ灌漑ともよばれる。 ( 出典:Wikipedia )
■参考にチェルノーゼム(黒色土)と『温暖湿潤(多雨)に属する』日本の黒ぼく土(黒色土)の土壌特性の違いを紹介する。尚、日本の主な土壌分布も紹介する。
温暖多雨地帯に属する日本は、『多雨』である事が最大の相違点を生み出す。
雨の中に大気中の二酸化炭素が溶け込み、土壌に降り注ぐ。
土壌の塩基分(カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などのアルカリ分)が流亡しやすく、土壌栄養素は地下水に流され、その結果、土壌はやせる。
つまり、日本の土壌は酸性化しやすくなり、世界一肥沃なチェルノーゼム(黒土)と対照的であり、戦後、やせた土壌(黒ぼく土等)に作物の収穫量増大を狙い、大量の窒素、リン酸肥料、カリウムが過剰になるまで投入され続けた。
同じ黒色土でありながら、その土壌特性は真逆である。
以下、日本の主な土壌分布も紹介する。
黒ボク土
黒ボク土は、主として母材が火山灰に由来し、リン酸吸収係数が高く、容積重が小さく、軽しょうな土壌である。
有機物が集積して黒い色をしていることが多く、黒くてホクホクしていることから黒ボク土と呼ばれる。
黒ボク土の分布する面積は国土の31%程度であり、農耕地では畑(普通畑、牧草地、樹園地)として広く利用されている。わが国の畑の約47%は黒ボク土が分布している。しかし、世界的には黒ボク土は稀少であり、その分布は全陸域の1%未満にすぎない。
褐色森林土
火山灰の影響の少ない山地・丘陵地に分布する褐色あるいは黄褐色の次表層をもつ土壌。
褐色森林土の分布する面積は国土の約30%を占め、黒ボク土大群についで広い。農耕地では主に普通畑、樹園地として広く利用されている。
低地土
現世の河成、海成、湖沼成沖積低地に分布する土壌である。台地の周辺部では台地土壌の上に「沖積堆積物」が覆っていることがあり、また無機質の「沖積堆積物」と「泥炭物質」とが重なり合うこともある
低地土の分布する面積は国土の14%程度であり、農耕地では主に水田として広く利用されている。わが国の水田の約70%は低地土が分布している。