植物は『光合成』によって生きるために必要な栄養分(グルコース:C₆H₁₂O₆)を作っている。
またその栄養分を使って、『呼吸』を行い、生きるために必要なエネルギーを作っている。
植物の呼吸は人間の呼吸と同じで、酸素を消費して二酸化炭素を作り出す。
つまり植物は二酸化炭素を出入りさせている。
出典:https://zatugaku-gimonn.com/entry453.html
■■光合成:二酸化炭素を『呼吸する』
二酸化炭素+水+光のエネルギー →栄養分(グルコース)+酸素+水
【化学反応式】6CO₂ +12H₂O →C₆H₁₂O₆ + 6O₂ + 6H₂O
・植物の光合成の場所:葉緑体
■■呼吸:二酸化炭素を『排出する』
栄養分(グルコース)+酸素+水→二酸化炭素+水+エネルギー(最大38ATP)
【化学反応式】C₆H₁₂O₆ + 6O₂ +6H₂O →6CO₂ +12H₂O
真核生物の呼吸の場所:ミトコンドリア
●光合成の働きは様々な要因によって変化する。
その要因とは主に3つある。
①光の強さ
②二酸化炭素濃度
③温度
特に①の光の強さが重要である。
強ければ強い程、光合成は盛んになり、二酸化炭素を多く呼吸する。
光の中では光合成(二酸化炭素を呼吸する)と呼吸(二酸化炭素を排出する)を同時行う。
一方、暗い場所では、光合成は殆どせず、呼吸が盛んになり、二酸化炭素を沢山排出する。
暗闇(夜間)では呼吸(二酸化炭素を放出する)のみ行う。
温度が同じなら光の中でも暗闇でも同じ量の二酸化炭素を出す。
②二酸化炭素濃度については施設園芸の栽培品目の生育管理で重要になる。
■■植物に必要な光と人間が感じる明るさの『指標=光の単位』の違い
光合成はメニュー『明反応(光合成電子伝達反応)』で述べたように電子の働きによる。
この電子を励起させるのは光量子(電子の粒)なので、光量子のエネルギーの単位で、光強度を表示しないと、光合成に対する光の効果を正しく評価する事はできない。
植物に対する光量(エネルギー)や光強度の単位は、それぞれ光量子束(μmol/s)と光量子束密度(μmol/m⁻²/s)を基本としている。
光合成に必要な光強度(400~700nmの可視領域)のことを光合成有効光子束密度(potosynthetic poton flux desity、PPFD)と呼び、光の単位時間(s)、単位面積(m²)当たりの光量子の個数(μmol/s)を表す。
植物は光の『粒子』を単位としてクロロフィル等の光受容体が吸収しており、人間の目には暗いと感じる青色(波長400~500nm)や赤色(波長600~700nm)の光が光合成には必要であり、光合成活性はこれらの光の光量子量に左右される。尚、緑色(波長500~600nm)の光の吸収が悪い。
光合成の電子伝達反応に直接関わる反応中心として働く:クロロフィルa
光を集めるアンテナ(集光性色素)として働く:クロロフィルa・クロロフィルb
注1)クロロフィルaは可視スペクトルの両端(青と赤)からの波長を吸収するが、緑は吸収しない。緑色が反射または透過するので、クロロフィルは緑色に見える。カロテノイドは、短波長の青色領域を吸収し、より長い波長の黄色、赤色、およびオレンジ色を反射する。
一方、人間の目は緑(555nm)に一番感度が高く、緑色の波長成分が多いほど明るく感じる。逆に波長が赤や紫に近づくほど暗く感じる。
人間の目の感度に合わせた明るさの単位が照度である。単位はルクス(lux)である。尚、照度は人間にとっての光の感じやすさを表した指標であり、植物の光合成速度を測る指標ではない事に注意を払う必要がある。
この為、植物栽培における光環境の評価には照度ではなく、光量子束密度(μmol/m⁻²/s)が用いられる。
●何故光の単位として光量子束密度(μmol/m⁻²/s)を使うのか
光を測定するのに、何故光子の数を数えるのか。
光子1個のエネルギーは光の色によって違う。短波長の光ほどエネルギーが大きく、長波長へ行くに従ってエネルギーが小さくなる。
注1)青から紫に向かうほどより短い波長を持ち、それゆえに高いエネルギーを持つ。逆に、黄から赤に向かうほど波長は長くなり、エネルギーは低くなる。(ロープを長くて広い波を動かすにはさほど力を要さないが、短くて狭い波を動かすには大変なエネルギーを要す)
クロロフィルは、吸収帯を2つ持っていて、青色(波長400~500nm)や赤色(波長600~700nm)を主に吸収するが、この2つ領域では光子1個の持っているエネルギーは違う。
光合成の反応は、クロロフィルが光子を1つ吸収すると起きる反応で、その反応は、光子がどの程度のエネルギーを持っているかによらない。
光子を吸収する回数を重視する。
光をエネルギーで測定した場合は、その波長によって、どれだけ光合成ができるかが違ってくる。
そこで、光の数を数える、つまり光量子束密度(μmol/m⁻²/s)を光の単位として使い、どの波長でも同じ結果が得られるようにした。
注1:光量子束密度(μmol/m⁻²/s)を光の単位に使った場合、一般に真夏の直射日光がおよそ2000μmol/s⁻²/s程度、曇り空だと50~400μmol/s⁻²/s程度(雲の量により変動)、室内の蛍光灯の下に立った時が10μmol/s⁻²/s程度である。
■■光合成速度■■
ある時間でどれくらいCO2を吸収したかを示す値を光合成速度と呼ぶ。
グラフは横軸に光の強さ、縦軸にCO2吸収量を示している。
①CO₂交換速度の単位(単位時間当たりどれくらいCO₂が交換されたかを示す)
・植物1個体当りCO₂の交換量:molCO₂s⁻¹/plant
・葉面積当りCO₂の交換量:molCO₂m⁻²s⁻¹
尚、他のデータとの比較の為に一般的には『葉面積当り』で示す。
②光合成に有効な波長域(400~700nm)の光子量(光の粒)が単位時間当り単位面積当り何モル(mol)通過するかを示す。
・光量子束密度(μmol/m⁻²/s)
◆見かけの光合成速度と光合成速度
・見かけの光合成速度
植物は光合成によってCO₂を吸収する一方で、自身が呼吸することによってCO₂を排出している。
ある時間あたりのCO2排出量を呼吸速度と呼ぶ。
そのため、測定できるCO2吸収量は次のようになり、これを見かけの光合成速度と呼ぶ。
CO2吸収量(見かけの光合成速度) = 光合成によるCO2吸収量(光合成速度) - 呼吸によるCO2排出量(呼吸速度)
・光合成速度
光合成によるCO2吸収量(光合成速度)を純粋に求める場合には、次の式のようになる。
光合成速度 = 見かけの光合成速度 + 呼吸速度
◆光合成の効率:光飽和点と光補償点
・光飽和点
光合成速度(CO2吸収量)は光の強さが増すにつれ、大きくなる。
しかし、ある一定の光の強さになると光合成速度は一定となる。
この光の強さを光飽和点と呼ぶ。
光合成を飽和させるレベルよりも強い光が照射されると、過剰な光エネルギーが発生する。
植物は、過剰な光エネルギーを熱に変換して安全な散逸機構を有している。
強すぎる光のもとでは、吸収した光エネルギーを率先して熱散逸する事で自身の光合成機能が壊れないようにしている。
・光補償点
光合成速度と呼吸速度が同じになる光の強さを光補償点と呼ぶ。
『光合成』で吸収する二酸化炭素(CO₂)の量=『呼吸』で排出する二酸化炭素(CO₂)の量
つまり、見かけの二酸化炭素(CO₂)の排出量がゼロになる『光の強さ』
■■植物と光の関係
◆植物は降り注ぐ光を利用しきれない。
植物が昼間の眩しいほどの日差しをを十分に利用し多くの光合成をするためには、その材料となる二酸化炭素(CO₂)が不足しているからである。
空気中の約80%は窒素(N₂)であり、約20%が酸素(O₂)である。
それに対して、二酸化炭素(CO₂)は、空気中にわずか0.04%ほどしか含まれていない。
二酸化炭素(CO₂)の濃度がこれほど薄いために、植物は多くの二酸化炭素(CO₂)が取り込めない。
その為、どんなに強い光が当たっていても、葉はそのすべての光を使いこなす事ができない。
注2:光量子束密度(μmol/m⁻²/s)を光の単位に使った場合、一般に真夏の直射日光がおよそ2000μmol/s⁻²/s程度
◆弱い光で野菜を作る
真夏の暑い時期に、野菜をビニールハウス等で栽培する理由の一つとし、強い光の害を避ける意味もある。
トマトやキュウリ、ナスなどの栽培である。
柔らかい葉や茎を食べる野菜はでは、強い光を避けて栽培する。
栽培中、あるいは、その一時期、光を完全に遮光する場合もある。
例えば、レタス、ほうれん草、ミツバ、シュンギク、シソ、小松菜、フキ、セリ、セロリなどで行われる『遮光栽培』。
これらの植物が植物工場の光の弱い場所でも栽培されるのは、弱い光でも十分に育つからである。
野菜意外でも、茶畑では、柔らかい新茶の葉を摘むために、茶の木を黒い『寒冷紗』覆う被覆栽培という方法が取られている。
『軟化栽培』という、太陽の光をほぼ完全に遮った条件で栽培される植物もある。ウド、ニラ、ホワイトアスパラガス、ミヨウガダケ等。
ミヨウガダケでは、真っ暗な中で育てられ、ごく一時期、光を当てられると、真白な葉の柄が部分的に赤みを帯びる。これらは、高級食材になる。
以上の内容は『花と野菜のふしぎ解体新書』ふしぎ その21より抜粋しています。