■■NADPHとNADHの違い
■NADPH(ニコンチアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)とは
・『還元型』と『酸化型』が有りが有り、電子(e⁻)と水素イオン(H⁺)を運ぶ。
・酸化型NADPH⁺は電子を受け取りやすい。
・還元型NADPHは電子を放出しやすい。
式にすると
NADP⁺+H⁺+2e⁻→NADPH
注1:NADP⁺という物質に2個の電子(e⁻)が結合し、この時、ストロマにあった水素イオン(H⁺)も1個結合し、結局NADPHという物資を生成する。
NADPHは補酵素とも呼ばれている。
補酵素とは、酵素の活性を発現させる非タンパク質性の低分子の有機化合物であり、様々な種類がある。
NADPHは脱水素酵素(物質から水素を引き抜く酵素)が働く手助けとして、水素と電子を受け取っている。
NADPHは葉緑体での光合成に関する働きが有名である。
・①明反応(チラコイド)の化学式
光合成の一番目のプロセスである。
水を分解して、水素を取り出す。
光合成では、水素を原子の形ではなく、陽子(水素イオン:H⁺)と電子(e⁻)の部分を分けて運ぶ。その運び屋はNADPHである。
NADP⁺に一つの陽子(水素イオン:H⁺)と二つの電子(2e⁻)がくっついたものである。
水の分解とNADPH生成を化学式で表すと次のようになる。
2H₂O →4H⁺ +4e⁻+O₂
NADP⁺+H⁺+2e⁻→NADPH
尚、炭素固定反応である暗反応(6CO₂)でグルコース(C₆H₁₂O₆)1分子の生成を想定すると、この過程でH₂Oが12分子消費され、O₂が6分子生成される。(内の反応式)
(12H₂O→24H⁺ +24e⁻+6O₂)
(注1:グルコース(C₆H₁₂O₆)1分子をつくる為に24個の電子を移動させている)
(12NADP⁺+12H⁺+24e⁻→12NADPH)
(注2:NADPHは、NADP⁺に一つの陽子(水素イオン:H⁺)と二つの電子(2e⁻)がくっついたものである)
上記二つの式をまとめると。次の化学式になる。
H₂O+NADP⁺→NADPH+H⁺+1/2 O₂
12H₂O+12NADP⁺→12NADPH+12H⁺+6O₂
■■ATPの生成量
■明反応でのATP生成
12H₂O+12NADP⁺+光エネルギー →12NADPH+12H⁺+6O₂+18ATP
チラコイド内腔では、2分子の水分解で4つ増えたプロトン(4H⁺)と更にシトクロムb₆/fから2個のプロトン(2H⁺)が送り込まれ、水素イオン濃度が高くなり、濃度勾配が発生する。
また、ATP合成酵素が葉緑体ではチラコイド膜に存在しており、水素イオン(H⁺)が濃度勾配に従ってATP合成酵素を通って移動する時にATPが合成される。
◆光リン酸化
ADP+Pi(リン酸)→ATP
光合成で生成されるNADPHとATPの生成比率は2対3になる。
12H₂O+12NADP⁺→12NADPH+12H⁺+6O₂より
18ATPが生成される。
まとめると
12H₂O+12NADP⁺→12NADPH+12H⁺+6O₂+18ATP
・光合成:②暗反応(ストロマ)の化学式
明反応で生成したNADPHとATPを利用し、二酸化炭素を還元して糖質(C₆H₁₂O₆:グルコース)を合成する反応である。この合成は『カルビン回路』という代謝経路で行われる。
暗反応はストロマに存在するカルビン回路を形成する『酵素群』によって反応が行われる。
カルビン回路において
最も重要な『炭酸ガス固定反応』を触媒するのがリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼという酵素で、Rubisco(ルビスコ)と呼ばれている。
光合成生物である光合成細菌、藻類、植物などでは、ルビスコが炭酸ガス固定を行う唯一の酵素であり、生き物の生命の維持はRubisco(ルビスコ)の反応に依存している。
カルビン回路は大きく分けて、次の3ステップから成る。
①炭酸ガス固定→②還元反応→③リブロース1,5-ビスリン酸再生
①炭酸ガス固定
CO₂が5炭糖(5-C=リブロース1,5-ビスリン酸:Ribulose bisphosphate(RuBP))に取り込まれる。
Rubisco(リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ)に触媒され、6炭糖(6-C)になる。
6炭糖(6-C)は不安定であるため速やかに2分子の3炭糖(3-ホスホグリセリン酸:PAG)になる。
【糖の炭素数】D-リブロース-1,5-ビスリン酸 (RuBP, C5) + CO2 → 2分子の3-ホスホグリセリン酸 (C3×2)
【光合成の反応式:同時6ラインのイメージ前提で】6CO₂ +12H₂O →C₆H₁₂O₆ + 6O₂ + 6H₂O より
6molのCO₂を使用する事から同時6ラインが同期しているイメージで
6-リブロース-1,5-ビスリン酸 (6RuBP, C5) + 6CO2 →12分子の3-ホスホグリセリン酸 (C3×12)
12分子の3-ホスホグリセリン酸 (12PGA:C3×12)を生成。
②還元過程(反応)
明反応で生成されたATPを用いてPGA(3-ホスホグリセリン酸)が1,3-ビスホスホグリセリン酸に変換される。(PGAはATPを消費し、リン酸を1つ増やした1,3-ビスホスホグリセリン酸になる)
【糖の炭素数】3-ホスホグリセリン酸 (C3) + ATP → 1,3-ビスホスホグリセリン酸 (C3) + ADP
【光合成の反応式:同時6ラインのイメージ前提で】
12PGA+12ATP→12 1,3-ビスホスホグリセリン酸 (C3) + 12ADP+12Pi
続いてこれがグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼで明反応で生成されたNADPHが運んできた水素イオン(H⁺)を二酸化炭素に固定する。
運んできた水素イオン(H⁺)と電子(2e⁻)がNADPHから剥ぎ取られるので、NADPHは元のNADP⁺に戻り、
グリセルアルデヒド3-リン酸(GAP、別名G3P)を生成する。
注3:水素を化学反応させる事を『還元』という。
【糖の炭素数】1,3-ビスホスホグリセリン酸 (C3) + NADPH → グリセルアルデヒド-3-リン酸 (C3) + NADP⁺+ Pi
【光合成の反応式:同時6ラインのイメージ前提で】
12 1,3-ビスホスホグリセリン酸 (C3) + 12NADPH → 12グリセルアルデヒド-3-リン酸 (C3) +12NADP⁺+12Pi
12グリセルアルデヒド3-リン酸(12GAP、別名12G3P)が生成される。
③リブロース1,5-ビスリン酸(RUBP)再生過程
12C₃(12GPA=12G3P)から2C₃(2GAP=2G3P)でC₆H₁₂O₆が生成され、残り10C₃(10GPA=10G3P)0=30carbonsは以下の反応が行われる。
具体的には、3、4、6、7炭糖間で一連の縮合・転移反応が行われて5炭糖が生成される。
最後に5炭糖であるリブロース5-リン酸(Ru5P)になる。
さらに Ru5P は ATP によりリン酸を 1 つ増やし
ホスホリブロキナーゼの触媒でリン酸が付加されてCO₂の受けてであるリブロース1,5-ビスリン酸になる。
【糖の炭素数】リブロース5-リン酸(Ru5P) + ATP →リブロース-1,5-ビスリン酸 (6RuBP, C5) + ADP+ Pi
【光合成の反応式:同時6ラインのイメージ前提で】
6リブロース5-リン酸(Ru5P) + 6ATP →6リブロース-1,5-ビスリン酸 (6RuBP, C5) + 6ADP+ 6Pi
これで再生されカルビンサイクルが完結する。
◆◆カルビン回路のまとめの化学式
6CO2 + 12NADPH + 12H+ + 18ATP
→ C6H12O6 + 6H2O + 12NADP+ + 18ADP + 18Pi(リン酸)
注4:明反応で生成された18ATPはカルビン回路の②還元過程(反応)で12ATPが消費され、③リブロース1,5-ビスリン酸(RUBP)再生過程で6ATPが消費される。
■NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とは
◆基本的な役割についてはNADPHと同じであるが、働く場所が異なる。
NADHは主に好気呼吸での中心的な役割を担い、主にミトコンドリアでよく見られる。
解糖系(細胞質気質)およびクエン酸回路(ミトコンドリア)での、糖あるいは脂肪酸の酸化によって、還元物質NADHが得られる。
NADPH(葉緑体で使用される)およびNADH(ミトコンドリアで使用される)は、どちらも生体内の電子伝達に関与する。
つまり、 NADP+およびNAD+ の状態から電子を受け取ってそれぞれNADPHおよび NADH となり、最終的に他の物質に電子を受け渡す。
■補酵素NAD⁺の働き
NAD+はある酵素と結合して、複合体として基質と結合する。
その基質は、水素元素(H⁺+e⁻)を含むもので、基質からH⁺を2つ、e⁻を2つ奪う。
奪った内から、水素イオンH⁺1つ、電子e⁻2つがNAD+と結合し、残り水素イオンH⁺は酵素から離される。
基質を分解した後、NAD+は酵素と離れる。
この時、結合した水素イオンH⁺1つ、電子e⁻2はそのままで、
NAD+と水素イオンH⁺1つ、電子e⁻2が結合したもが、NADHである。
故に、NADHは電子e⁻で還元され、水素イオンH⁺で結合したもである。
■好気呼吸でのATP生成
好気呼吸によるグルコース1分子(C₆H₁₂O₆)からのATP生成量は38ATPとなっている。
C₆H₁₂O₆+6O₂+38ADP+38Pi→6CO₂+6H₂O+38ATP
この内訳は、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系(酸化的リン酸化)の3つの代謝である。
・解糖系は、細胞質基質で行われる酸素を使わない糖の酸化過程
C₆H₁₂O₆+2NAD⁺+2ADP+2Pi→2C₃H₄O₃(ピルビン酸)+2NADH₂⁺+2ATP
・クエン酸回路は、ミトコンドリアのマトリックスでピルビン酸などから変換されたアセチルCoAを二酸化炭素に分解する酸化過程である。
2C₃H₄O₃+2NAD⁺+2HS-CoA→2CH₃CO-S-CoA(アセチルCoA)+2CO₂+2NADH₂⁺
2CH₃CO-S-CoA(アセチルCoA)+6NAD⁺+2FAD+2GDP+2Pi⁺6H₂O→4CO₂+6NADH₂⁺+2FADH₂+2GTP+2HS-CoA
2GTP+2ADP⇔2GDP+2ATP
・電子伝達系(酸化的リン酸化)は、水素受容体(NADH₂⁺、FADH₂⁺など還元型の補酵素)を酸化し、酸素に電子を伝えて水を生成する過程において、光リン酸化(光合成)と同様に、ATPを生成する反応系である。
具体的には
ミトコンドリアのマトリックス(内膜の内側)で発生したプロトン(H⁺)を膜間スペース(外膜と内膜の間)へ汲み出す事で、ミトコンドリアの内膜を隔てて、隙間スペースが高濃度となるプロトン(H⁺)の濃度勾配が生じる。
このため、マトリックスと膜間スペースの間に電位差が生じる。
この電位差に逆らい膜間スペースからマトリックスへ3個のプロトン(H⁺)が流入する時に、ATP合成酵素により、ADPとリン酸(Pi)から1分子のATPが合成される。
ADP+Pi+H⁺→ATP+H₂O
プロトン(H⁺)の逆流は、
1当量のNADH₂⁺からATPの約3当量、
1当量のFADH₂⁺からATPの約2当量が生成可能といわれている。
好気呼吸(解糖系、クエン酸回路)では、グルコース(C₆H₁₂O₆)1分子あたりで、生成するNADH₂は10当量(=3×10=30ATP)、FADH₂⁺が2当量(=2×2=4ATP)となるので、最大で30ATP+4ATP=34ATPが生成される。
注1:NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、全ての真核生物で用いられる電子伝達体で、脱水素酵素の補酵素として、酸化型(NAD⁺)と還元型(NADH)の状態を取り得る。
尚、一般的には、(NADH+H⁺)の状態を(NADH₂⁺)と表記する例が多い。
NADH₂⁺+酸化物資⇔NAD⁺+還元物資(2e⁻+2H⁺)
注2:FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)は、代謝反応に必要な酸化還元の補酵素で、酸化型(FAD)と還元型(FADH₂)の状態を取り得る。
FADH₂⁺+酸化物資⇔FAD+還元物資(2e⁻+2H⁺)