⑦ 火山噴火に関する『観測技術』の知見を収集~後藤忠徳氏(兵庫県立大学大学院教授)の「火山噴火予知は可能か?」のWeb記事を中心に転記~

■火山噴火の規模で情報を整理する

富士山大規模噴火の事前予測の可能性を探る

噴火3時間後に首都圏にて降灰をもたらす大規模噴火が検討対象

レールの上に火山灰が0.5mm積もると鉄道は運行できない。

加えて雨が降ると、

送電線に付着した火山灰によりショートして、東京・神奈川・千葉・埼玉で大規模な停電が発生する

出典:https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200331001140.html 朝日新聞DIGITAL 2020年3月31日

同様に、細かい火山灰は浄水場に設置された濾過装置にダメージを与え、水の供給が停止する恐れもある。

火山灰により大都市のライフラインは機能停止に追い込まれる。

火山噴火観測技術(先端テクノロジーを含む)知見を収集し、

行動指針(事前避難を含む)の判断材料にする。

注)首都圏に及ぼす降灰被害の詳細内容は「② 日帰り旅行を楽しみながら避難ルートの探索も~静かな超巨大災害(降灰被害)を想定して~」にて記載

出典:右図)https://www.youtube.com/watch?v=zpEXTV4p6Yg 京都大学レジリエンスフェスティバル_自然災害レジリエンスpart1「迫り来る地震発生と火山噴火の可能性」解説:鎌田浩毅

注)巨大地震と富士山噴火の連動(京大火山学の権威が断言「富士山に大異変」…コロナ後に「日本沈没」は現実だ 噴火前にみられる数々の兆候  京都大学名誉教授 鎌田浩毅の記事より抜粋)

江戸時代には巨大地震が発生した数年後に、富士山が大噴火を起こした事例がある。

⇒1703年の元禄関東地震(マグニチュードM8.2)の35日後に、富士山が鳴動を始めた。

その4年後の1707年に、宝永地震(M8.6)が発生した。

さらに、宝永地震の49日後に富士山は南東斜面からマグマを噴出し、江戸の街に大量の火山灰を降らせたのである。

出典:各種資料から抜粋、編集

古文書から見た富士山の噴火・噴気などの記録と噴火の時期

出典:⑤ 今年316年、宝永からマグマを溜め続けた富士山・・次の大噴火は「これまでにないステージの始まり」となるか  鎌田 浩毅氏(京都大学名誉教授)の記事(2023.12.15現代ビジネス)を転記~より

■巨大地震・巨大火山噴火の発生精度を求めるよりも注意喚起の判断を理解する

「3.11のMw9級地震」の事象は極めて発生頻度が低いと思われていた。

⇒地震エネルギー(E)でM9.0はM8.4の7.9倍大きい

⇒地震エネルギー(E)でM9.0はM8.6の4倍大きい

・他方、M9級は1000年サイクル(869年貞観地震、2011年)又は600年サイクル(864年、1455年享徳地震、2011年)であると津波堆積物と古文書から推定されていた

出典:https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/YOTIKYO/OpenReport/H30/H30SeikaGaiyo.pdf 「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」平成30年度年次報告 科学技術・学術審議会測地学分科会 地震火山部会

M8級の南海トラフ(東海・東南海・南海)地震は100年~150年サイクル

出典:http://ares.tu.chiba-u.jp/marulab/note/bosai/Lec4.pdf 防 災 工 学 第4回 千葉大学 工学部 都市環境システムコース 丸山 喜久

・生活圏での被害の規模(南海トラフ巨大地震)

被災者数:約6000万人(日本の人口の半分)

被災額:政府試算で東日本大震災の約10倍に当たる220兆円を上回る甚大な被害と予想されている

■南海トラフ地震に誘発されて富士山噴火も想定される中

・噴火3時間後には首都圏までに広がる降灰の噴火規模に関して

どこまで事前予測(MT法等の観測技術)が可能かを調べる

出典:左図)https://kagakubar.com/earth/17.html 火山噴火予知は可能か?(5) 第17話 MT法(地下探査法)で富士山の地下を可視化 右図)https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(3) 第15話

出典:左図)https://kagakubar.com/earth/17.html 火山噴火予知は可能か?(5) 第17話

注)富士山近辺は乱気流等の気流変化があり、過去航空旅客機の墜落事故も発生(英国航空)

■富士山噴火に係る現状と対策

山梨県富士山科学研究所所長・東京大学名誉教授 藤 井 敏 嗣 寄稿論文より一部抜粋

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Shiryo/2022ron19-02.pdf/$File/2022ron19-02.pdf

・富士山のマグマ成分

⇒富士山は 99%が玄武岩と呼ばれる粘性の低いマグマの活動で作られた火山

次期噴火火口の位置の予測困難性

⇒最近 2300 年間には 80 回ほどの噴火が生じているが、

いずれも毎回異なる地点に火口を新たに作っている

・深部低周波地震

⇒富士山の直下 15km ほどの深さでは

⇒マグマや火山ガスなどの流体の移動に関連して深部低周波地震が生じると思われる

⇒毎月数回から十数回程度、発生している。

⇒しかも、2000年 11 月から 2001 年5月にかけては、毎月 100回を超える活発な活動があった。

⇒富士山深部のマグマ活動は止まっていないのである。

いつ噴火しても不思議でない富士山

⇒地質調査によって確認された過去の噴火は、5600 年前まで遡ると、約 180 回である

⇒すなわち、平均的には 30 年に1回は噴火を繰り返していたことになる。

ところが、1707 年以降は 300 年以上噴火を起こしていない

平均的な噴火間隔の 10 倍の期間、静寂を保ったままである。

このような状況はこれまで活発に活動を繰り返してきた活火山としては異常であり、

その意味では今後いつ噴火を起こしても不思議はないと考えられる。

■富士山噴火の短期予測

主に地震活動の高まりや地殻変動の観測に基づいて行われる。

⇒マグマ噴火が発生する前には、

⇒地下深くから高温のマグマが地表近くまで移動してくる。

この際に、マグマの通路を作るために途中の岩石が破壊されて地震が起こるとともに

一定量のマグマが地表に接近するために、山体が膨らむなどの地殻変動が生じる。

このような、通常とは異なる火山活動を把握して噴火の切迫性を推定する

・富士山については 300 年以上噴火していないので

地震計などの近代的観測機器で噴火前の異常現象を観測したことはない。

このため、他の火山での観測例を参考にして噴火に備えることになる。

■富士山については

・地震計などの近代的観測機器で噴火前の異常現象を観測したことはない。

このため、他の火山での観測例を参考にして噴火に備えることになる。

桜島では

⇒ 1955 年以来、南岳あるいは昭和火口からの噴火が継続している。

⇒年間噴火回数は数百回から千回に達する。

⇒桜島の場合は地下6km 程度の深さにあるマグマ溜まりと山頂火口の間でマグマの通路が確立しているので、

各噴火の前に地震活動が活発化することはあまり生じない

⇒しかし、マグマの上昇に応じて、

山体がごくわずかではあるが膨張する。

このことを利用して、山麓の坑道内に設置された精密な伸縮計や傾斜計

地殻変動の連続観測に基づいて

噴火の直前予測が行われている

通常は山体の膨張が始まると数時間後に噴火が発生する。

浅間山では

⇒2004 年9月以降の数ヶ月間に断続的に続いた噴火の際に、

噴火の数時間から 10 数時間前には毎回山体が膨張する傾向が傾斜計に捉えられ、

同時に山頂直下での地震活動が活発化することが確認された

⇒このことを利用して、2009 年2月の噴火を予測し、

⇒噴火警戒レベルを引き上げて交通規制を行ったところ、

13 時間後には予測通りに噴火が発生した

・これらの例のように、

富士山でも噴火の直前には山体膨張や地震活動の活発化を観測によって捉えて、

噴火が切迫していることを把握することは可能であると考えられる。

大規模噴火の例として、富士山のマグマと同様に、マグマの粘性が低いハワイ、キラウ
エア火山で発生した 2018 年噴火を参照する

キラウエア火山では 1983 年から 2018 年までの 35 年間、

⇒山頂近くの火口から溶岩を絶え間なく流出していたが、

⇒2018 年4月突然噴火が停止した。

⇒その後4月 30 日になって、山頂火口から東方に 20km ほど離れた山麓にある団地の直下で突然、地震活動が始まった。

群発地震が継続するなか、

⇒5月3日には団地内の道路を横断する割れ目から水蒸気が噴き上がった。

⇒この割れ目は長さ約1km 程度であったが、

まもなく水蒸気は 1200℃のマグマの噴泉で置き換えられ、

⇒割れ目からは溶岩流が流出し始めた。

・前兆現象が観測されてから

3日間の猶予しかなかったのである

この噴火は、噴火のクライマックス期間も3ヶ月で、

流出した溶岩流も 30 億トンと、

富士山で歴史上最大の噴火である 864〜866 年の貞観噴火に酷似している

このことからすると、富士山で大規模噴火が発生する場合でも、

前兆が現れてから数日程度で噴火に至ることは十分に考えられる。

世界の火山で、玄武岩マグマという富士山に似た化学組成のマグマを主体とする火山の多くは、

前兆となる現象が観測されてから

⇒噴火に至るまでには、長くても1-2週間しかなかったという事実は承知しておく必要がある

富士山と同様に玄武岩マグマを噴出した三宅島 1983 年噴火では、

⇒島の直下で地震活動が突然始まったが

1時間半後には山腹に数 km の割れ目が出現し

その割れ目から火のカーテンのようにマグマが噴き上げ、溶岩流が流出したのである

富士山でも最悪の場合

前兆現象が観測されて数時間以内に噴火に至ることもあり得ることは想定しておくべ
きであろう。

玄武岩マグマの性質からすれば、

地下で 10km 程度の距離をマグマが移動するには、

条件さえ整えば1時間程度で済むのである

火山噴火のメカニズム

火山ガス

⇒地球の表面を覆うプレートが陸の下に沈み込むときに、

⇒大マントルの一部が溶けてマグマができるといわれている。

マグマは、

⇒周辺の岩石よりも比重が軽く、高温な液体のため、

⇒地表から5~20kmの場所まで上昇して留まります。

⇒これをマグマ溜まりという。

マグマには、

水蒸気をはじめとするさまざまなガスが溶け込んでいて、

⇒上昇によって圧力が減ると

⇒その体積が徐々に増えていきます。

マグマの体積が増えると

地表に出ようとする力が働く。

⇒マグマが地表に出ようと上昇することで、

⇒さらに圧力が下がるため、

この現象が加速度的に進行。

マグマが一気に火道を上昇して、火口を押し開いて噴火する。

出典:https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/world/egao/taio/volcano/mechanism.html 東京海上日動

出典:https://kagakubar.com/earth/01.html 世界一深い穴でもまだ浅い 第1話

出典:https://kagakubar.com/earth/08.html 想定外と想像内の狭間で(2) 第8話

出典:https://president.jp/articles/-/37438 京大火山学の権威が断言「富士山に大異変」…コロナ後に「日本沈没」は現実だ 噴火前にみられる数々の兆候  (京都大学名誉教授 鎌田浩毅) 

宝永噴火は直前の2つの巨大地震が

富士山のマグマだまりに何らかの影響を与えて噴火を誘発したと考えられている。

⇒例えば、地震後にマグマだまりにかかる力が増加し、マグマを押し出した可能性が考えられる。

また、巨大地震によってマグマだまりの周囲に割れ目ができ、マグマに含まれる水分が水蒸気となって体積が急増し、外に出ようとして噴火を引き起こしたとも考えられる

出典:右上図)内閣府 南海トラフの巨大地震モデル検討会  左下図)https://www.youtube.com/watch?v=zpEXTV4p6Yg 

注)水蒸気噴火は、火山噴火の予知が一番難しいタイプの噴火(御嶽山の噴火)

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(4) 第16話

火山活動の観測技術(後藤忠徳氏の「火山噴火予知は可能か?」のWeb記事より転記)

現在の科学技術では、火山のどんな異常を検出しているのか?

Ⅰ.火山の噴火と地震の関係

火山の下の地震活動に注目してみる。

⇒2006年の桜島(深さ10kmより浅い地震の多発)と2004年の浅間山噴火(深さ数百メールで地震が多発に対して

2014年御嶽山噴火水蒸気噴火:事前予知が難しい)から噴火規模についての認識を高める。

■2006年の桜島(鹿児島県)の噴火

・火山の近くの浅い所で起きる地震(深さ10kmより浅い地震)は

⇒火山性地震と呼ばれる。

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(3) 第15話

①図右上・右下に、桜島での火山性地震の発生地点(震源)の分布をしめしている。

⇒図中の白丸(灰色)は1988年以前の震源、黒丸は2001年~2004年の震源

黒丸の方が白丸よりも地下の浅い所に集まっている

②図左上は、火山性地震の発生数(1カ月毎

⇒1995年~1999年頃までは地震活動が盛んですが

2000年~2002年頃までは地震活動が低くなっているが

⇒2002年以降は再び地震活動が盛んになっている。

③図左下は桜島の山そのものの変形の様子と桜島火山へのマグマの供給総量(積算量)の変化

⇒マグマの供給総量は桜島から噴出した火山灰の量から推測した。

地下から毎月同じ量のマグマが供給されいると

⇒グラフは直線的に右肩上がりになる。

地下から供給量がストップすると

⇒グラフは横ばい状態になる。

2000年~2002年頃はマグマの供給がほぼストップしていたことがわかる。

⇒2002年以降は再びマグマが供給され、

⇒2006年6月4日には噴火が観測されている。

⇒1946年に溶岩が流れ出た火口から58年ぶりに噴火が発生した。

火山の中で何が起こった?

⇒地下から火山へのマグマの供給が多いほど、地震活動は盛んになる(らしい

マグマが地表へと向かって上昇すると、浅い地震が増える(らいし

■2004年の浅間山の噴火

噴火の直前に山頂直下(深さ数百メートル)で多数の地震活動が観測された

⇒このように極めて浅い地震活動は、火山以外ではほとんど観測されません。

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(3) 第15話

◆火山防災に関する参考資料

・浅間山

出典:https://www.bousai.go.jp/kazan/expert/pdf/091201_sanko.pdf

・火山の下には

⇒マグマが蓄積されているところがあり、マグマ溜まりと呼ばれている。

⇒マグマ溜まりに蓄えられていたマグマが地表に向けて上昇する際、

⇒上昇するマグマが周辺の岩盤を押し広げるため

⇒浅い地震活動が活発になるだろうと考えられています。

この特性を利用することができれば、火山がいつ噴火するか予測することが出来そうですね。

・火山性微動と低周波地震

⇒火山性微動:揺れ始めや終わりがはっきりしない地震。

⇒低周波地震:揺れ始めや終わりまで数日以上続くものもあるそうです

低周波地震

⇒1秒間に数回しか揺れず、長く継続する地震。

⇒何故火山の下で低周波地震が起きるのか

その理由は完全に解明されていませが

おそらくマグマやマグマから分離した水といった「液体(=流体?)」が重要な役目を果たしていると考えられている。

⇒これらの特異な地震活動も、火山の噴火の予測に役立つと考えられています。

出典:“1000年に一度の地震” 専門家「ワーストシナリオの中でも予想上回る」 能登半島地震の発生メカニズムを解説|TBS NEWS DIG (注)火山以外の場所でGPSによる地表隆起現象は普通は見られない

Ⅱ.火山そのもの変形(地殻変動)の様子

・地形の変形をmm単位で測れるGPS観測

桜島とその周辺でのGPS観測を行って、地殻変動の解析結果によると

1996年~2007年の11年間に、地表が数cmから10cm程度移動していることが明になった。

出典:図5)https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(3) 第15話

⇒まるで姶良カルデラ(アイラカルデラ)を中心として、地面が「逃げていっている」ように見える。

おそらく姶良カルデラの地下にマグマが溜まっていて、そのために岩盤がカルデラの外側に押し広げられているのでしょう

シミュレーション(数値解析で検討

⇒姶良カルデラの地下11kmに8,000万立方メートルのマグマを(注射器で)ギューっと注入してみる

⇒東京ドームに約65杯分の量になる!

⇒地殻の変動は図5の灰色の矢印のようになるはずです。

黒色の矢印(観測値)と灰色の矢印(予想値)はピッタリと一致してはいませんが、概ね一致していると言えそうです

⇒つまり、姶良カルデラの地下11km付近にはマグマ溜まりがあり、

マグマが溜まっている量が11年間で8,000立方メートルも増えたために

地殻が変形したと考えることができる。

⇒桜島の地下では刻一刻とマグマが溜まっているわけである。

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(3) 第15話

Ⅲ.何故御嶽山の火山噴火は予知できなかったか?

噴火の前には火山の直下で地震活動が活発になる。

⇒図1には2014年9月の地震活動の様子が示されている。

御嶽山の山頂付近(赤い丸で囲んだ部分)の地震活動は

7月や8月はほとんど見られなかったのに

9月には急に活発になりました

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(4) 第16話

長い期間の地震活動を見る

⇒図2には2007年から2014年の噴火直後までの地震活動の様子が示されている。

この図からも、御嶽山の山頂直下では長いあいだ地震活動は見られなかったのに

2014年9月に入ると活発化している様子が認められる

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(4) 第16話

噴火前の地震活動を詳しく見る

⇒図3は、8月~9月の御嶽山直下での地震発生回数をグラフにしたものです。

⇒地震活動は9月に入ってから盛んになり、

9月10日から11日にかけてピークを迎えます(1日あたり85回発生)

しかしその後、地震の発生回数は徐々に減少していきます

地震活動が再び増加するのは

噴火の約10分前です

9月27日午前11時41分頃から火山性微動が発生し

11時52分に噴火に至ります。

⇒9月27日だけで350回を超える火山性地震が観測された。

⇒地震の増加が、いつ噴火に結びつくかは判断ができません。

⇒しかも、過去の事例と比較しても、

今回の地震活動の増加が「大規模な噴火に至る前触れだ」とは思われませんでした

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(4) 第16話

・2007年のごく小規模な噴火(御嶽山)

⇒その時の1日あたりの地震発生回数は130回を超えており、

⇒起きる深さもごく浅く(山頂の地下1km程度)なっていました。

⇒さらに、火山が膨らむような地殻変動も観測されていました。

Ⅳ.判断を誤った理由

・今回の噴火ではどうだったか?

⇒図3に示したように9月上旬~中旬の地震発生数は1日あたり85回が最高値でした。

異常な地殻変動も観測されていませんでした。

⇒こででは「ごく小規模」な噴火すら至らないと判断するのが普通でしょう。

⇒実際、気象庁は御嶽山噴火に先立つ9月16日に

⇒「2007年の火口の内側やその近くでは、少量の火山灰などが噴出するかもしれませんから、注意して下さい」と発表していました。

大規模な噴火に至る科学的な異常はなかったのです

出典:https://kagakubar.com/earth/13.html 火山噴火予知は可能か?(1) 第13話

・どこに誤りがあったのか?

よく言われることは「御嶽山では噴火の記録が少なかった」ためです

⇒小規模な噴火を除くと

⇒1979年に中規模な噴火があったことは知られていますが

⇒それ以前の噴火の記録が見当たりません。

⇒1979年の噴火の際には「死火山大爆発」というよな見出しが新聞に載ったくらいです。

⇒最近の調査結果では、1000年に平均1回程度の噴火を起こしていたようですが、いまも詳しくは分かっていないのです。

火山噴火予知に成功してきた火山

噴火の頻度が高い

種々の記録が充実していたこと

過去のデータと照らし合わせて判断

◎判断を難しくした噴火のタイプ

・噴火のメカニズム(タイプ)は大別して3種類

御嶽山の噴火タイプが予知を難しくした。

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(4) 第16話

①水蒸気噴火(図4左、水蒸気爆発とも言われる)

地下水を含む地層(帯水層と言います)とマグマは直接触れませんが

地下水がマグマに熱せられて水蒸気になり、

噴火を引き起します。

②水蒸気マグマ噴火(図4中、マグマ水蒸気爆発とも言われる)

マグマと地下水が直接触れ合って、

水蒸気が大量に発生することにより噴火を引き起すタイプです。

⇒このとき、マグマ本体も細かく壊れるので

⇒水蒸気とマグマの欠片が火口から一緒に噴き出しています。

③マグマ噴火(図4右)

マグマ自体が山頂直下まで上がってくる際に、マグマの中で火山ガスが発生し、

この圧力が噴火を引き起します。

2014年9月27日の御嶽山の噴火のタイプ

火山灰中に新しいマグマの欠片は含まれていませんでした

①の「水蒸気噴火」が起きたのだと考えられています。(図5)

出典:https://kagakubar.com/earth/15.html 火山噴火予知は可能か?(4) 第16話

水蒸気噴火は、火山噴火の予知が一番難しいタイプの噴火です

②水蒸気マグマ噴火や③マグマ噴火の場合は

マグマ本体が地下の浅くまで上昇してくるため

地震活動が明らかに変化し、

大きな地殻変動も発生する

①「水蒸気噴火」の場合はその度合が小さいことが知られている

御嶽山は

火山噴火の記録が少なく

地震・地殻変動の異常が比較的出づらい①「水蒸気噴火」を繰り返している火山なのです

◎噴火の規模は小さかったが

今回の噴火は大噴火ではありませんでした

⇒東京大学や産業総合研究所の試算によりますと

⇒火山灰などの総量は41万~145万トンに上るそうです。

この量は

三宅島での2000年の噴火時の総噴出量の数十分の1程度であり

1990年~1995年の雲仙普賢高の噴火時の数百分の1に過ぎません

■火山の内部を覗き見る方法(手法・技術)

富士山の内部を見る

地下探査手法(地磁気地電流法あるいはマグネトテルリク法(略してMT法)

⇒富士山の地下の電気の通りにくさ(電気抵抗:より正しくは比抵抗)を

⇒MT法により可視化した結果を図5に示しました。

電気を用いた地下の透視法の紹介

出典:https://kagakubar.com/earth/17.html 火山噴火予知は可能か?(5) 第17話

富士山の真下、深さ20~50kmの地域には

周囲よりも10倍~100倍ほど電気が流れやすい部分図5のC1の部分:赤色が見られる。

この部分のすぐ上には火山特有の地震活動が見られます(図5の星印)。

低周波地震といって、普通の地震よりも低い周波数の振動(ガタガタというよりもユラユラした揺れ)を発生する特殊な地震です

電気の流れやすい部分や低周波地震は

富士山直下にあると思われる

マグマ溜まりや

マグマから出てきたガスや熱水(熱い地下水)

と関係があると考えられています

・他の透視法

⇒磁気・重力・地震の揺れを使う方法や宇宙線を使う方法等、様々な方法が試されており、科学的な成果も挙げています。

火山の下を透視して、どの深さにマグマや熱い地下水があるかがわかれば

火山の噴火のメカニズムも明らかになるでしょうし

⇒火山噴火予知も出来るのではないか?

⇒と期待が持てます。

◎電気探査で火山活動の様子を調べる

火山の中を細かく覗き見る地下探査テクノロジーを2つ紹介します。

・①「電気探査」

⇒文字通り、地中に弱い電気を流して、電気の通り方から地下を探索する技術(図1)

出典:https://kagakubar.com/earth/18.html 火山噴火予知は可能か?(6) 第18話

⇒地表に電極(金属棒)をたくさん設置して、電極と装置本体をケーブルで結びます。

⇒様々な電極組合せで電流を流し、地表に発生する電圧を測定する。

地下の電気の通りにくさ(専門用語で比抵抗)の分布を調べることができ

⇒穴を掘らなくても地下の様子が分かる。

世界中のあちらこちらの火山で

⇒電気探索が行われている。

⇒イタリアのヴォルカーノ火山の例を見る。

出典:https://kagakubar.com/earth/18.html 火山噴火予知は可能か?(6) 第18話

⇒この火山の裾野から頂上を超えて反対側の裾野まで

⇒沢山の電極を地面に刺し、その間を延々とケーブで繋いで電気探査を行ったところ

⇒ヴォルカーノ火山の内部では

電気をよく通す地層(比抵抗の低い地層)

通さない地層(比抵抗が高い地層)

⇒複雑に分布していることが明らかになった(図2)。

電気探査の地下断面図

火山活動の様子が明らかとなります。

一般に、地下水や粘土を含む地層は電気を通しやすいことが知られています

逆に、割れ目を含まず(水も含まず)固く緻密な岩石は電気を通しません

山頂のクレーターの地下には電気を通しやすい部分(図2上の青色部分:比抵抗の低い部分)が見つかっていますが

⇒クレーター周辺では数多くの噴気(水蒸気などのガスの噴き出し)が確認されています。

⇒これらの噴気の下には、高温の地下水(熱水)があると考えられますので

山頂付近の青色の部分は

火山の地下深くで温められた熱水が地下から地表へ向かう通り道だと考えられます

クレーターの外側(北東側)に見つかった電気を通しにくい部分(赤~紫色:比抵抗の高い部分)は

マグマが冷え固まった固い岩体(貫入岩)だと推測されます。

地下のモニタリング

火山の同じ場所での電気探査を繰り返し実施

火山の中が時間とともにどのように変化していくかを調べる研究も進んでいる

火山直下の電気の通りやい部分が段々大きくなるようならば

火山活動がだんだん活発になっているよ!と推測できるでしょう。

空中磁気探査(空から地下を調べる)

電気探査の弱点

地表にケーブルを設置しなくてはいけない

ケーブルは噴火や土砂崩れなどで切れてしまう

火山噴火が本格化すれば

電気探査ができなくなるかもしれません。

肝心なときに、肝心な情報が得られなくなる。

出典:https://kagakubar.com/earth/18.html 火山噴火予知は可能か?(6) 第18話

解決策としてケーブルを設置しない方法

⇒ここ最近、空を飛びながら電気探査と同じような地下探査を行う技術が一般化してきました。

⇒この「空中電磁探査」という技術を使えば

⇒空から地下探査をすることができるのです。

⇒実際に火山地域で空中電磁探査を実施した例も報告されています。

■近未来の火山噴火監視体制

従来監視

⇒地表では地震や地殻変動を観測します。

⇒地下深くから地表に向けてマグマが上がってくれば

⇒火山性地震が増加します。

⇒地面も徐々に変形していきます。

これらを観測して、火山全体の活発度を推し量る

空中電磁探査

火山の中を透視します。

⇒地震・地殻変動データにもとづいて「怪しい」と思われる地域を絞り込み、

地下の様子の定期的なモニタリング(火山の健康診断)ができれば

マグマや水蒸気がどこをどう移動しているかを効率よく可視化できるでしょう。

火山の中を覗き見る「宇宙線ミューオンラジオグラフィ」

火山の中を細かく覗き見る最新のテクノロジー

⇒これはX線撮影(レントゲン撮影)に似ています。

X線は地面の中を通り抜けることはできないので、火山のレントゲン撮影は無理です

しかし、宇宙からやってくる高エネルギーの放射線「宇宙線」により生み出される素粒子

「ミュー粒子(ミューオン)」は

⇒物質を通り抜ける力が強いことが知られています。

X線の代わりにミュー粒子を使えば、火山のレントゲン撮影ができるのではないか?

⇒これが宇宙線ミューオンラジオグラフィと呼ばれる技術です。

⇒日本の研究者たちは、世界に先駆けてこの技術にトライしており

火山内部の「撮影」を次々と成功しています

出典:https://kagakubar.com/earth/18.html 火山噴火予知は可能か?(6) 第18話