家庭菜園をし始めて今年で3年目に入る。
幸いにも知人の紹介で徒歩5~6分圏の所に農地(7m×7m)の賃貸契約が出来、かつ指導を受けながら見よう見まねで週末農業を実践し、自然の力(=大地の力)のお陰で収穫が出来た際の喜びは、再度自然の力の偉大さを実感させられる。
野菜の出来栄えも家庭で食べる上では何の問題もなく、旬の時期に収穫した野菜は美味しく、汗を流して栽培した過程から、安心して食する事が出来る。これが家庭菜園をする楽しみである。
収穫時にミミズが時々出てきてビックリしたが、知人によると冷戦崩壊後のキューバでは、農業振興と食料生産増強を目指し、その際ミミズを利用したと聞き、自然の共生システムの一端に触れた。
尚、草をこまめに引き抜く作業は想像以上に大変である。手抜きをすると大変痛い目に遭う事も体験した。
自然の力の有難さを実感するだけでなく、自然の力と農作物の相互関係について、少しでも分かるようになれば、更に家庭菜園が楽しくなるのではと思い、手始めに中学生の時に学んだ『光合成』について再度学び直し、学習過程で知り得た知識の一部でも家庭菜園に活用したい。更に時代の空気感(最新の科学的な知見の動き)に接してみるのも面白そうである。
植物は光を浴び、二酸化炭素(CO₂)と水(H₂O)を材料にして、炭水化物(C₆H₁₂O₆)を合成するほか、酸素(O₂)も発生させ、大気中に酸素(O₂)を放出する。
この反応を光合成と呼ぶ。
化学反応式は 6CO₂+12H₂O+光エネルギー → C₆H₁₂O₆+6O₂+6H₂O である。
方程式は単純に見えるが、光合成が行われる多くのステップは複雑である。
この化学反応式(6CO₂+12H₂O+光エネルギー → C₆H₁₂O₆+6O₂+6H₂O)は単純な物質(CO₂とH₂O)からより複雑な化合物(C₆H₁₂O₆)を作る過程であり、『同化』と呼ばれる。
■化学反応におけるギブスエネルギーの変化Δ\({r}G^{\circ }\)と太陽光エネルギー値(0.145kJ)&変換効率(1%)との関係から『10a(=1,000㎡)当たりの米作収穫量予想』を検討する。
尚、本検討をするあたり「光合成と地球環境 (生研〔東京大学生産技術研究所〕公開講演) 渡辺 正 49巻10号(1997.10)」内容から『太陽光エネルギー値&変換効率の算出プロセス』を参考にした。
計算結果:10a当りコメ全体(コメだけでなく、稲の茎・葉・根を含む)の重量は、約1,200kgでコメ部を約半分の重量とすると600kgになる。統計データでは、10a当たり全国平均で約530kgであり、大きな目安として『この計算式』が活用出来る。
検討の為に以下①~③の検討データを用意して予想収穫量を推定した。
化学反応を一般に
$$\sum _{i}v_{i}A_{i}\rightarrow \sum _{j}v_{j}A_{j}\tag { 1 }\\$$
のように書けば、反応のギブスエネルギーの変化Δ\({r}G^{\circ }\)は
$$\Delta _{r}G^{\circ }=\sum _{j}v_{j}A_{j}-\sum _{i}v_{i}A_{i}\tag { 2 }\\$$
生成物から反応物を差し引いたものである。
尚、(1)式の左辺が反応物、右辺が生成物
①標準生成ギブスエネルギーのデータより光合成のギブスエネルギーの変化Δ\({r}G^{\circ }\)
\(6CO_{2}\left[ g\right]+6H_{2}O\left[ l\right]\rightarrow \ C_{6}H_{12}O_{2}\left[ c\right]+6O_{2}\left[ g\right]\)
\(6\left(-394.4 \right)+6\left(-237.2\right)\rightarrow \ -910.6+0\)
注:下図の熱力学的性質の数表を利用した
\(-3789.6\rightarrow \ -910.6\)
(2)式より
$$\Delta _{r}G^{\circ }=-910.6kJ-3789.6kJ\\$$
$$\Delta _{r}G^{\circ }=+2879.0 kJ\\$$
この時に出来るグルコース(C₆H₁₂O₆)1モルの質量は180gである。
注1:炭素の原子量=12.0、水素の原子量=1.01、酸素の原子量=16.0
注2:グルコースの分子量=12.0×6+1.01×12+16.0×6≒180.1
光エネルギーを化学エネルギーに変換して取り込んだエネルギー値(+2879.0kJ)と重量増加(180g)は、概ね次の関係で結びつく。
蓄積エネルギー2879kJ⇔重量増加180g
②10aの面積が受ける太陽光エネルギーの年間値
快晴で太陽が真上にある時、地表の1㎡に降り注ぐ光エネルギーは1kW(1000Js⁻¹)となり、これが地球上の最大値である。
日本の緯度では、光エネルギー密度の最大値は約800Wm⁻²。降雨、季節変動をならしての実測値として約145Wm⁻²。
これに3600(秒)×24(時間)×365(日)×10a(=1,000㎡)当たりの値に換算すると
日本で10aの面積が受ける太陽光エネルギーの年間値(密度)
\(=4.57\times 10^{9}\) kJ ha⁻¹ y⁻¹
\((3,600\times 24\times365\times1,000=31,536,000,000)\)
\((145Wm^{-2}=0.145kJ)\)
\((3.1536E+10\times0.145=4.57E+9)\)
③太陽エネルギーの変換効率
・太陽光のスペクトルは、紫外線から可視光を経て赤外線まで広い波長に及ぶ。
・紫外線が3%程度、可視光が45%ほど、残り52%が赤外線の構成である。
・光合成は可視光を利用するので変換効率は55%近く落ちる。
注1)人間の網膜色素は、700nmから400nmの間の波長の光、つまり可視光と呼ばれるスペクトルしか「見る」(吸収する)ことができない。同じ理由で、植物では、色素分子は700nmから400nmの波長範囲の光だけを吸収する。
・可視光のエネルギーは1.7~3.1eVの範囲に入り、変換効率の最大値は可視光の端にあたる1.8eVに対応し、24%になる。(下図)
・光合成の内部メカニズム(光化学系ⅡとⅠ)で決まる最大値
何かが変化する時には、必ずエネルギーが消費される。太陽光によって励起されたエネルギーは電子伝達鎖内(鳥瞰図的にPSⅡ→シトクロムb₆/f複合体→PSⅠ:図1の『光合成初期反応を示すZスキーム』)を移動し、NADP⁺にたどり着く。
光化学系ⅡとⅠ(Antenna中の黒曲線)の励起移動(e⁻)は、1.8eV×2=3.6eVを駆動力として1個の電子(e⁻)が+0.8Vから-0.4V付近まで持ち上げる。その差1.2V(エネルギーで1.2eV)が生成物に取り込まれる。
この内部メカニズムにより効率は1.2÷3.6=1/3になってしまう。
よって24%の1/3より変換効率は8%が最大になる。
・更に、光呼吸の不完全さ(植物が緑色をしている事実)、植物の生理(成長や代謝にエネルギーを使うという事実)を考慮に入れると、太陽エネルギー変換効率の上限値は2~3%になる。
注1)クロロフィルaは可視スペクトルの両端(青と赤)からの波長を吸収するが、緑は吸収しない。緑色が反射または透過するので、クロロフィルは緑色に見える。
・農作物の生育期間は少なくとも数カ月間かかる。
・生育条件も変わり、生育の全期間で平均すると、太陽光エネルギー変換効率はせいぜい1%レベルと予想される。
●以上①~③のデータを使用して『米作の収穫予想/10a』を算出する。
・稲作にはほぼ5カ月を要す。
・日本で10aの面積が受ける太陽光エネルギーの年間値
\(=4.57\times 10^{9}\) kJ ha⁻¹ y⁻¹
上記式に5/12倍し、1%を掛ければ10a当たりに期待できる蓄積エネルギー
\(=4.57\times 10^{9} kJ ha⁻¹ y⁻¹\times0.417\times0.01=1.9\times 10^{7}\) kJ ha⁻¹ y⁻¹
\((4,572,720,000\times0.417\times0.01=19,053,000)\)
・更に蓄積エネルギー2879kJ⇔重量増加180gの関係を使いエネルギーを植物体の重量に換算すると
約1,200kgになる。
\((19,053,000\div2,879=6,618)\)
\((6,618\times180g=1,191,226g=1,191kg)\)
この重量は、いわゆるコメだけでなく、稲の茎・葉・根を含む全体重量である。
コメ部の重量を約半分と想定すると、600kgになる。
統計データでは、日本のコメ生産量は10a当たり平均530kgである。
以上より、植物の光合成は効率1%で太陽の光エネルギーを炭水化物(C₆H₁₂O₆)の化学エネルギーに変換するシステムであると分かる。
■地球に起きた大イベント=酸素(O₂)の誕生
約45億年前に地球が誕生し、27億年前まで地球には酸素(O₂)が全く存在しなかったと言われている。
ある時期を境に、現在の酸素濃度の百分の1程度までに一気に急上昇をした。
酸素濃度の急上昇した要因として、植物の起源とされる『シアノバクテリア』の誕生が指摘されている。このバクテリアが行う『光合成』により、爆発的に酸素が生み出されたという見解である。
光合成を行う植物にとって、酸素(O₂)は全然必要ないもので、外部に捨てられた酸素(O₂)は今日、大気の21%までに占めるに至った。
岡山大学の沈建仁(しんけんじん)先生によると、地球上の酸素は、すべて植物などの光合成生物によってつくられているとの事。その量は年間約2600億トン。地球上の大気中の酸素量は、約1200兆トンなので、約4600年で大気中の酸素がすべて循環される計算になると指摘されている。(参照元:SPring 8 大型放射光施設 光合成の中核をなす複合体の構造を解明 ~人工光合成への大きな一歩を踏み出した~)
気の遠くなる営みである。
■光合成の反応系
以下2つの反応から構成されている。
①光が直接関与し、エネルギーを生産する反応(明反応):光合成電子伝達反応
・植物が光を浴びると、葉緑体内の『チラコイド膜』という所で電子(e⁻)が発生する。
この電子(e⁻)がその後複雑な動き(電子伝達鎖内:鳥瞰図的にPSⅡ→シトクロムb₆/f複合体→PSⅠを移動)をして、NADPH(相手を還元させる力をもつ)を作り出す。一方、電子(e⁻)と同時に発生したH⁺は、H⁺濃度勾配(プロトン濃度勾配)を利用しATP(エネルギー源)を作り出す。
②光が不要な反応(暗反応):炭素固定反応
・明反応で作られた2つの物質(ATPとNADPH)を使い、カルビン・ベンソン回路の働きによって二酸化炭素(CO₂)が固定され、糖質(炭水化物:C₆H₁₂O₆)が作られる。
注:CO2固定を触媒する酵素がRubiscoで、光合成のカギ酵素
①明反応(=光合成電子伝達反応)と②暗反応(=炭素固定反応)の詳細内容をサブメニューにて用意する。
この章の終わりに光合成の知見を『稲の生産性向上』に結び付けた事例を紹介する。