戦後の日本社会の特徴である大量生産・消費による高度成長社会の実現があった。
特に所得倍増計画は投資と消費を正のサイクルで急上昇させ、物が豊富に行き渡る生活スタイルを築き上げ、まさに一億総中流社会を生み出した。
この高成長経済社会の動向に合わせるように、土壌分布から痩せた土壌(黒ボク土)に化学肥料を大量に投下する事で、農作物の収量アップを目指し、量的な対応を取った。
この大量化学肥料の投入という動きの象徴が、農林水産省が進めた『特定野菜等供給産地化』政策である。
それは、特定の場所を特定の野菜の大型産地とし、大都市に計画的に出荷するやり方である。
量の確保が主眼である為、広く多くの圃場に同一品種を作付けて画一的に肥料を与える事を毎年繰り返す事から、『連作障害』も恒常化させた。
また単一品種を大量にさばく為に、栽培方法にも工夫され、決まった段ボール箱に決まったサイズで収まり、箱詰めやすく、店頭で見栄えのよい農作物作りが広がった。
平成のバブル大崩壊は、『物の供給過剰とデフレ経済』が30年間に渡り続き、GDPもほとんど成長せず、一億総中流社会は崩壊し、非正規労働者の増加とセットで貧困化層が増加し、縮み社会の象徴である格差社会を顕在化させるに至っている。
農作物作りも過剰供給の業態転換を上手く図れず、消費者サイドからは見た目と量は良いけど、『栄養や食味(旨味)が失われている』のではないかと心配する意識変化が起きており、従来農業による農作物づくりは曲がり角に来ている。
消費者がネット活用で情報収集力と解読力を向上させ、専門的な知識さえ持つようになってきている。(一例:アルカリ土壌で起こる微量要素の不溶化は、作物が微量要素を吸収利用させなくし、その結果、『うまみ』や『健全な栄養価』を損ってしまう)
今日、ブロックチェンで『食の安全を担保』しようとの動きも世界的に同時に起きており、ethicalな(倫理的)生産者と消費者を結び付ける共感の輪の広がりも鮮明になり始めている。
これら動きは、新しい付加価値の創造による高収益化(=ブランド創造)の道を切り拓くだけではなく、持続可能な社会づくりに寄与する。
■■環境保全と土壌管理を結び付けた『安全で栄養価が高くて美味しい』ブランド創出
例えば、戦後の滋賀県の米作は、積極的な農薬利用による病害虫駆除と過剰化学肥料の投下で米作収量増をもたらし、他県に販売出来ほどになり、近畿の米蔵になった時期もあったそうである。
一方、高度成長経済の負の側面(環境汚染)が誰の目にも無視出来ない時期が到来した。
例えば、アオコ現象の頻発。
過剰な栄養塩類の流入は、時として植物プランクトンの中でもラン藻類の増加を招き、アオコ現象を引き起こした。
植物が必要とする以上の化学肥料(N、P、K等)の投下は、土壌中に残され、特にリン(P)や窒素(N)は時間と共にその形態を変化しながら、土壌から溶脱し、地下水、河川等を経て、琵琶湖に流入し、富栄養化、底層の貧酸素化や地下水の硝酸汚染を引き起こした。
注:湖の富栄養化を引き起こすのは栄養塩のなかでも主にリンだと言われている。
更に、滋賀県の真ん中に位置する琵琶湖は、瀬田川、宇治川を経由して淀川に流入し、大昔から関西の『水がめ』の役割があった背景も有り、水がめを守る為に、脱合成洗剤(石鹸の利用奨励)の県民運動と歩調を合わせて『減農薬』と『減肥料』による米作に転嫁(琵琶湖に野放図に農薬や肥料を流さない)した結果、
今日の近江米は『環境こだわり米』のブランドを生み出した。(滋賀県選出の衆議院議員 大岡敏孝氏のネット対談よりhttps://youtu.be/t5Gb-NLdTdc)
◆生態系に配慮した生産基盤整備(滋賀県長浜市事例)
・農業生産基盤(区画の整理・大型化・農業水利施設等)の整備は、
自然生態や生態系の保存を配慮(滋賀県長浜市事例:田んぼに遡上できるように魚道の設置)する等、調和に配慮した整備を県、土地改良区が連携し、推進。
・ブランド米の新規創出
田んぼに遡上できるように設置した魚道を通り、
田んぼで産卵・繁殖している状況を確認すると共に、
魚毒性の最も低い農薬(除草剤)を使用するなど、
魚にやさしい田んぼで作られた米を
滋賀県が『魚のゆりかご水田米』として認証している。
◆地域に根付いた生活文化(川端という文化)の意義
琵琶湖の水を汚しくたくない運動が起きた背景に琵琶湖流域に根付いている生活文化もあると思われる。
琵琶湖周辺には川端(かばた)と呼ばれる独特の文化が今も残っています。これは琵琶湖へ流れる小川を各家庭まで引き込み、さらに湧き水を組み合わせて生活に利用するというものです。
小川から家庭へ引き込まれた水は台所の近くを通り、この水の中には鯉が数匹飼われています。水は一年中温度が一定なので、夏はスイカや麦茶を冷やしたり、顔を洗ったり、様々な用途に使われています。
また、そのまま飲料水になるほど綺麗なので、料理に使用したり、食材を洗ったりするのにも使用されます。
食器に残っていた残飯を小川の水で洗うと、鯉が残飯を食べてくれて水が浄化されて小川に戻る仕組みになっています。
小川の上流を利用する住人は、下流を利用する住人のことを考えて、なるべく水を汚さないようにするのが「暗黙の了解」。
水を大切に使うことがこの地域の住人にとっての常識となっているので、水に関しての争いも起こらないのだそうです。(以上、伊藤園の琵琶湖環境保全活動資料より)
◆ethical(エシカル)消費の実践:無意識ではあったが第一歩を踏み出す
3.11以降、地元のイオンで近江米(湖北地方産)を購入して食しているが、この対談を聴くまで『環境こだわり米』のブランドが付いている事を知らなかった。強いて言うなら、子供頃、大坂の寿司屋は近江米を使うと聞いた事はあったが。
主食の米だけは滋賀県産の米を意識的に購入するようになった理由は、福島第一原発から遠くに離れており、放射能汚染も少なく、子供に頃から稲穂の生育過程も見て滋賀県で育ったので、安心して食する事は出来ると判断したからである。
尚、ブランド化により価格もそれに見合う値段が付いているが特別高いとは感じていない。
下図資料によると「プレミアム米」は、慣行栽培に比べ60㎏当り1,500円程度高く取引され、かつ大規模生産によって大手量販売店との契約販売を実現する事で農業経営の安定化に貢献と記載されている。
この対談を介して新たな情報を知る事になったが、スマホ片手で作り手の思いが伝わる時代を迎え、美味しく食する情報も結び付ける事で、『品質の高い』消費生活が可能になる地点にまで来ている。
生産者と消費者及び食に係る人々間で本格的なコラボレーションできる時代を迎え、新たな切り口でのブランド作りが地域社会の環境保全活動と結びついた事例(環境こだわり米)は、SLOC(Small Local Open Connected)社会の具体的事例であると考えられる。
地域の特産物を大事に育てる過程で、環境へのこだわりが非常に大事である事を『環境ごだわり米』は示唆しており、今日の社会はこの流れを支持している。
■■地域が長期に渡り守り育ててきた特産物(=ブランド化)を破壊する福島第一原発汚染水の海洋投棄問題
滋賀県民が琵琶湖、つまり『関西の水がめ』を守る事を選択した結果、河川を介して琵琶湖に流れ込む環境汚染水(農薬、肥料、合成洗剤等)に歯止めが掛かり、琵琶湖から瀬田川、宇治川、淀川へと大昔からの水の流れを利用して営む生活を持続可能にした。
一方、2011年3月に福島第一原発の大爆発(1号機。2号機)及び巨大爆発(3号機)により発生した原子力炉心部の大損傷と地下水の炉心部への流入による放射能汚染水処理問題が新たに発生した。
溢れ出る放射能汚染水が海洋に流出しないように、ポンプ等で放射能汚染水を汲み取り、タンクに保管・貯蔵する対策が2011年3月11日以降取られてきた。
福島第一原発の敷地に設置された放射能汚染水用貯蔵タンク群が満杯になったとの理由で、海洋投棄を行う意思表明が10月に日本政府よりなされ、国内外から大反対が起きている。
満杯になれば、他の場所に保管タン群を設置し(広大な敷地がある福島第二原発の活用等)、タンクローリで移送すれ良いだけである。又はタンカーに一時的保管すれば良い事で、代替案は多数有るのに何故、海洋投棄をしなければいけないかが全く説明されていない。
放射能汚染水が海洋投棄されれば、
一大環境破壊を引き起こすだけでなく、三陸沿岸で採れる豊富な漁業資源は、『食の安全』の観点から利用禁止に繋がり、
大昔から地域社会が大事に育ててきたブランドを破壊し、持続可能な地域生活社会を崩壊させる。
今日の消費者が支持する動きと真逆の行為を
日本政府は実施しようとしている。
消費者不在の政策は経済成長を破壊するだけでなく、
経済回復を決定的に遅らせる悪政である。
滋賀県民が関西の水がめを守る選択をした事例に学び、日本政府は太平洋の海を守る事が出来ないと宣言する事は不可である。
滋賀県民が出来て日本政府が出来な事はあり得ない。
更に、東京五輪誘致選挙の際に、安倍元首相が誘致演説した『福島第一原発はコントロール下に有る』との国際公約は、反故する事になる。
東京五輪開催の当選資格要件を喪失してどうし五輪が開催できるのか?
尚、民間の電力会社が事故を起こしながら、放射能を大気中にばら撒いた責任も取らず、土壌除染もせず、すべて土壌汚染除染は国家予算で実施させてきた現実が有る。
過保護も度を超すとデタラメがまかり通る事が東電で実証されている。
図1の出典:放射性セシウム沈着量の面的調査(走行サーベイによる空間線量率から評価したセイシウ137沈着量)。調査機関:原子力機構、(公財)日本分析センター、(公財)放射線計測協会、(公財)原子力安全技センター。
調査期間:平成 26 年 7 月調査: 平成 26 年 6 月 23 日~7 月 30 日
平成 26 年 11 月調査: 平成 26 年 10 月 27 日~12 月 5 日
図2の出典:米大学宇宙研究協会(USRA)や名古屋大、東京大などの国際チームが14日までに行ったシミュレーションの結果で、米科学アカデミー紀要電子版に発表される。
◆◆東京電力福島第一原発で発生した汚染水を浄化処理した後の放射性物質トリチウムを含む汚染水
福島第一原発では、事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)が残る原子炉への注水などで大量の汚染水が発生し続けている。
東電は、汚染水をトリチウム以外のほとんどの放射性物質を除去できる多核種除去設備(ALPS)で浄化処理した後の水をタンク内に保管。量は約120万トンに上る。
保管する処理水の約7割は浄化が不十分で、トリチウム以外の放射性物質も国の排出基準を超えて残る。
以下、ALPS処理汚染水をめぐる議論のポイントがよくまとめられた資料を紹介する。
資料紹介先:国際環境NGO FoE Japan 満田夏花様による2020年3月30日学習会「ALPS処理汚染水について知っておきたいこれだけのこと」
https://www.foejapan.org/energy/fukushima/pdf/200330_mitsuta.pdf
出典:ALPS処理汚染水をめぐる議論のポイント 国際環境NGO FoE Japan 満田夏花