■■土壌を構成する3つの要素
・腐植・生物・鉱物である。
鉱物については前のメニューで記載済み。
今回は生物と腐植について紹介する。
・腐植
⇒有機物が分解し、土に固有の有機物に再結合されたもの。
・生物
⇒下等なバクテリアやアメーバから高等生物まで。
◆生物
大きな動物として、日本ではまず哺乳類のモグラやトガリネズミがあげられる。
さらに小型のミミズ、クモ、トビムシ、ダニ、昆虫の幼虫、線虫などの無脊椎動物が植物の遺体を細かく粉砕したり、土を耕したり、特定の病害虫被害の急激に発生するのを防いだりしている。
ミミズは土中を動き回って穴を通し、団粒と呼ばれる小さな土の固まりとなる糞をあちこちに置いていく結果、土は耕され、そのミミズの糞は実際、10年で 6cm 位、土の表面に積もるという計算もあるほどである。またミミズの身体表面や腸にいた微生物がミミズの移動、糞をまいていくことに伴い、それ自身では活発な移動手段を持たない微生物類もまた土中を広く深く移動、拡散していく。
【キューバのミミズ農法】
冷戦終了後(1989年以降)、東欧諸国と同様にキューバも最悪の経済危機に直面した。
この経済危機の原因は、旧ソ連や東欧諸国からの援助や貿易を激減させた事による。
その結果、深刻な食糧不足に直面した。
経済危機の初期には、大規模国営農場が解体され、小規模化する農業改革がされ、多くの人々が家庭菜園をするきっかけにもなり、有機農業への転換の一助となった。
現在は、たとえ、農業経験がほとんどなくても、地元政府から無料で食料生産用の土地を市民は取得できる制度になっている。
今日の新型コロナウイルスで米国で家庭菜園ブームが起きているが、既に30年前に先取りした動きである。
有機農業には、土壌特性に応じた知識が求められ、きめ細かな農作物生育管理には、小規模農家の方が適した形態でもある。
国を挙げての食料増産に一役買って出たのが『ミミズ』活用の農法であった。
化学肥料の代替としてミミズ堆肥にして、更に生産性も3割程度アップさせたとの事である。
尚、キューバにおいては、砂糖、カカオ、コーヒー等、機械化による大規模プランテーションにおいても有機農業への転換が始まっているが、その転換スピードは小規模農場や協同組合農場と比べると遅い。
ほとんどの大規模農場は、いまだに慣行農業のままで、有機農業への転換が進んでいるのは、小規模農家やその組織である。
キューバの都市菜園(小規模農家やその組織や個人等)は、地元生産と地域内流通システムを創造することで、地域の食料供給面で重要な役割を果たすまでに至っている。
キューバのミミズ農法は子供の頃、自宅の畑の野菜ゴミ場にてミミズを取り、魚釣りの餌とした事を思い出させ、週末農業の圃場で土を掘り起こす際に時々ミミズや昆虫類にも出会う。
ミミズを活用するキューバ農法は、非農薬使用で牛糞堆肥と苦土及び少量の追肥が中心の家庭菜園実践者には参考にもなるが、現状では物々交換レベルに止まり、地産地消のモデルからは程遠いが進化の道筋を示している。
◆腐植
腐植物質は、枯れた樹木や草、落ち葉、動物の排泄物や遺骸などの有機物から変化してできる物質。
自然界の植物は、根から水や養分を、葉・茎から日光と二酸化炭素(炭酸ガス)をそれぞれ吸収して生長する。(光合成)
その生長過程で落葉や枯死があり、落ち葉や枯れ木などの有機物が地表に落ち、これが土中の微生物によって分解され、植物の生育に必要な養分になる。
微生物や小動物の死骸、フンなども同様である。こうしてできた養分が再び植物に吸収されるという循環をくりかえしている。
◆腐植の役割
多様な役割を持っており、以下の視点からの眺めてみる。
①緩衝能力
・土壌状態が極端に変わる(肥料等の投入により)と植物の根に負荷が掛かるが、それを抑制するように働く。
②保肥力
・降雨で植物の生長に必要な養分を流れないように捕まえる力がある。
③糊の役目
・土を集めて『粒』にするのも腐植の役割。そうして出来たのが団粒構造と言って、水はけも水持ちも良い土になる。
④三大肥料であるリン酸(P)をアルミニウムからガードする働き
・火山灰土(黒ボク土)がもたらすアルミニウム障害
リン酸(P)は、黒ボク土に含まれるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)と結びつき、植物の根が加害され、養水分が吸収できなくなる。
・非火山土灰(黒ボク土)以外が約50%を占める畑作地
腐植がアルミニウム(Al)をカードして、カルシウム(Ca)と結びつきやくすくなる。
尚、黒ボク土の腐植は、土壌中にアルミニウム(Al)と結びついているので、
分解がほどんど進まず、作物の栄養源としてはあまり価値がなかった。
一方、世界一肥沃なチェルノーゼム(黒土)に含まれる腐植の性質は、
黒ボク土の腐食とは異なり、
土壌中のカルシウム(Ca)と結びついている。
これは、アルミニウム(Al)と結びついている場合と比べて、
微生物に分解されやすいのである。
従って、チェルノーゼム(黒土)では各種の栄養が作物に豊富に供給される事になる。
⑤植物ホルモンに似た効果がある
腐植にはホルモンに似た効果がある事も研究されている。
根が伸びたり、大きな根のわきに小さな根がいっぱい生えるのも腐植のおかげだと言われている。
・菌根菌
菌根菌とは、植物の根に共生する菌類を指す。
菌根菌は、宿主である植物から糖分や脂肪酸などの光合成産物を得る一方、土壌中に伸ばした菌糸から吸収するリン酸やミネラルといった養分や水分を宿主植物へと供給する。
菌根菌には樹木に共生しキノコを形成する外生菌根菌など多くの種類が知られている。
例えば、農作物をはじめ多様な植物に共生することのできるアーバスキュラー菌根菌(AM菌)がある。AM菌は真菌類の中でも系統的に最も古い種類に属し、植物が海から陸に進出した4億年以上前には植物と共生関係を始めていたとされる。
■■環境保全型農業の今日的意義
戦後、『農地改革』によって大地主の所有する農地が小作農民に分配され、多数の小規模自作農が生まれた。
昭和30年代に入り、高度成長経済が本格に立ち上がり、同期するように自作農家は収入増を目指して経済行為としての農業を営むようになった。
痩せた土壌(黒ボク土)に無機肥料である窒素(N)、リン(P)、カリウム(k:肥料ではカリと呼ぶ)の3大肥料要素を毎年過剰投入し、並行して病害虫対策として積極的に農薬散布を行い、対前年度比で生産増を目指した。
尚、黒ボク土の分布する面積は国土の31%程度であり、農耕地では畑(普通畑、牧草地、樹園地)として広く利用されている。わが国の畑の約47%は黒ボク土が分布している。
例えば、戦後の滋賀県の米作は、積極的な農薬利用による病害虫駆除と過剰化学肥料の投下で米作収量増をもたらし、他県に販売出来ほどになり、近畿の米蔵になった時期もあったそうである。
一方、高度成長経済の負の側面(環境汚染)が誰の目にも無視出来ない時期が到来した。
例えば、アオコ現象の頻発。
過剰な栄養塩類の流入は、時として植物プランクトンの中でもラン藻類の増加を招き、アオコ現象を引き起こした。
植物が必要とする以上の化学肥料(N、P、K等)の投下は、土壌中に残され、特にリン(P)や窒素(N)は時間と共にその形態を変化しながら、土壌から溶脱し、地下水、河川等を経て、琵琶湖に流入し、富栄養化、底層の貧酸素化や地下水の硝酸汚染を引き起こした。
注:湖の富栄養化を引き起こすのは栄養塩のなかでも主にリンだと言われている。
更に、滋賀県の真ん中に位置する琵琶湖は、瀬田川、宇治川を経由して淀川に流入し、大昔から関西の『水がめ』の役割があった背景も有り、水がめを守る為に、脱合成洗剤(石鹸の利用奨励)の県民運動と歩調を合わせて『減農薬』と『減肥料』による米作に転嫁(琵琶湖に野放図に農薬や肥料を流さない)した結果、今日の近江米は『環境こだわり米』のブランドを生み出した。(滋賀県選出の衆議院議員 大岡敏孝氏のネット対談よりhttps://youtu.be/t5Gb-NLdTdc)
◆環境保全型農業とは
・農業の持つ『物質循環機能』を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくりなどを通じて化学肥料、農薬の使用などによる環境負荷を軽減し配慮した持続的な農業を『環境保全型農業』という。
・化学肥料や農薬などの使用は土地(土壌)を汚染し、生態系を壊してしまう可能性がある。
・作物を栽培していない期間にレンゲなどのカバークロップ(緑肥)作物を植え、環境と調和した持続可能な農業生産を行うのが良い。
注:滋賀県の農家が取組む『環境こだわり農産物』の詳細内容は、メニュー最下層にある『環境保全型農業が取組むブランド創造事例と環境破壊がもたらすブランド喪失』にて記載しています。
◆カバークロップ(緑肥)とは
カバークロップ(緑肥)は主要作物の栽培期間の前後でレンゲなどのカバークロップを作付けする取組。
緑肥を栽培し、その土壌を耕すときに一緒に混ぜてしまうことで天然の肥料とし、化学肥料の使用を控える事が出来る農法。
◆カバークロップ(緑肥)作物の効果:生物性の改善
すき込んだ緑肥の分解や根から分泌される養分(ムシゲル)が土壌中の微生物群のえさとなり、豊富な微生物群を形成していく。
緑肥の種類によっては、作物障害を与えるセンチュウの密度を低減させる事が出来る。
◆窒素循環
窒素(N)は
タンパク質に必ず含まれる元素なので生物の生育に必須だが、
農地では作物とともに運び出されて不足することが多いので、肥料として供給することが必要になる。
窒素肥料の施肥は農作物の収量に明確に影響を与える。
窒素肥料は、1913 年のハーバー(Haber)とボッシュ(Bosch)の発明により大気中のN₂を固定してアンモニアを合成することにより、大量に生産できるようになった。
現在、窒素化学肥料なしでは、世界の人口を支える食料を供給できない。
使用された肥料中の窒素は、一部は環境中に漏れ、一部は作物に吸収されて人や家畜に供給され、最終的に排出される。
この窒素は窒素固定と呼ばれるプロセスによって「固定」される。
注:地表付近の大気の主な成分は、比率が高い順に、窒素が78.08%、酸素が20.95%、アルゴンが0.93%、二酸化炭素右が0.03%である。
◆窒素固定とは、
窒素ガスを他の窒素化合物(硝酸塩やアンモニア)へと変換する反応のことであり、例えば窒素と酸素から硝酸塩(NO₃⁻)などを生成する反応を指す。
窒素固定は、19世紀までは、主役は土壌内の窒素固定能力を持ったバクテリアであり、例えばマメ科植物の根にある根粒菌も窒素固定を行う。
窒素固定菌は、ある酵素を使って窒素(N₂O)ガスを硝酸塩に変化させる。硝酸塩は植物や動物によって消費され、上述のタンパク質やDNAなどの生合成に利用さる。
タンパク質などは食物連鎖によって循環していく。
動植物に使われた窒素は、排泄物や死体の腐乱によって解放される。
腐植動物や分解者が動植物の排泄物や死体を分解し、窒素はアンモニア(NH₄⁺)に姿を変える。
【生物学的窒素固定】
ある種の細菌がもっている酵素のニトロゲナーゼは、大気中の窒素をアンモニアに変換する働きを持ち、この作用を生物学的窒素固定という。
ニトロゲナーゼによる窒素固定反応は、
N₂+8H⁺+8e⁻+16ATP → 2NH₃+H₂+16ADP+16Pi
この反応による直接の生成物はアンモニア(NH₃)であるが、これは直ぐにイオン化されアンモニウム(NH₄⁺)になる。
アンモニアは毒性があり、土壌内の亜硝酸菌がアンモニア(NH₄⁺)を亜硝酸塩(NO₂⁻) に変化させる。
亜硝酸塩も多くの生物は利用できないが、硝酸菌が亜硝酸塩を硝酸塩(NO₃⁻)に変化させ、再び生物が利用可能な形になる。
一部の硝酸塩は脱窒のプロセスを経て窒素(N₂O)ガスに変化する。
このような無機窒素化合物を利用できるのは植物と菌類であり、それらがこれを吸収してアミノ酸など有機窒素化合物を合成し、動物はそれを利用することができる。
植物は
①アンモニア態窒素、②硝酸態窒素、③アミノ態窒素といった複数系統から窒素吸収が可能であるが、どの系統からの吸収が強くなるかは土壌条件に」よる。
・①アンモニア態窒素
アンモニウムイオンは陽イオンである為、粘土コロイド(マイナスに帯電した土壌粒子)に吸着されやすく、流動性を高めるには土壌水分が多量に必要。
⇒乾燥条件の畑土壌では利用しにくく、水田や、比較的土壌水分が多い果樹栽培で利用可能。
・②硝酸態窒素
硝酸菌の生息条件が、中性に近いpHと好気性である為、土壌を酸性化する果樹や、潅水で嫌気的になる水田では利用しにくい。
・③アミノ態窒素
土壌中のアミノ酸は、枯草や動物遺骸などの分解による窒素リサイクルで発生する。
⇒土壌有機物が豊富に存在すれば利用可能。
⇒植物内でのアミノ酸合成にはエネルギーがかかる為、日照不足等で植物が光合成を十分に行えない場合、土壌からのアミノ酸吸収が効果的に働く。
◆土壌中の生物(微生物)
土壌中の生物は、
細菌、放線菌、糸状菌、藻類、原生動物に分けられる。
・細菌は
動植物の遺骸や腐植物質などの有機物の分解を司ると共に、窒素固定や脱窒作用など農業上重要な作用を営むグループも含む。
更に細菌は、窒素、硫黄、鉄、マンガンなどの無機元素の酸化・還元反応に関与し、土壌の物質循環の重要な担い手である。
微生物は一般に様々な極限環境に生育できるが、特に細菌はその能力に優れており、あらゆる土壌中で広く活動している。
灌水期の水田土壌などの嫌気状態の土壌中では細菌が主な物質循環の担い手である。
・放線菌は
細菌と糸状菌の中間に位置する生物であり、多様な有機物を栄養にして生育し、これはキチンを分解する微生物を含む。
キチン物質は、植物病原菌の多くを占める糸状菌の細胞壁構成成分であり、キチン分解放線菌を利用して植物病原性糸状菌のコントロールが図られている。
放線菌はまた各種抗生物質を生産する能力を有しており、土壌伝染性病原菌の抑制に役立つと考えられている。
・糸状菌は
細菌に比べて一般に耐酸性が強く、酸性土壌での有機物分解において重要な働きを担っている。
土壌中におけるリグニンの分解は主に糸状菌によりなされる。
森林表面に厚く堆積した落ち葉の層は糸状菌が活躍する世界である。
・土壌藻類の主なものは
緑藻、藍藻、ケイ藻であり、光エネルギーと無機物だけで生育の可能な生物である。
また藍藻は窒素固定能力も有し、水田土壌の肥沃度増進に役立っている。
・土壌中の原生動物は
アメーバ、繊毛虫、鞭毛虫などからなり、その多くは動植物遺骸や各種微生物を食べて生きている。
原生動物の存在により土壌中の物質循環が促進する事が知られている。
土壌中には以上の微生物に加え、ミミズやトビ虫などの土壌動物が多数生育している。
これらの土壌動物は、動植物遺骸を咬み砕いて摂食し、その一部を糞として排出する。
このように粉砕・排出された有機物は、その後各種微生物により速やかに分解される。
また、土壌動物の生息・活動は土壌の攪乱、混和を招来し、土性、透水性さらには根域を変化させる。
土壌動物の円盤検索表(下記URL)
https://www.nacsj.or.jp/supporter/wp-content/uploads/2017/05/enban.pdf
要約すると
微生物は
各種物質の分解、酸化・還元などの土壌の化学性に、
他方ミミズ等の土壌動物は
土壌の物質性に、
主に関与している。
◆森林における生物の数量的な概略目安:1m×1m×0.15mのサイズでの生物数
・大きさにして2cm程度の生物:ミミズ等で300頭。
・2cm以下の生物:ルーペ等で観察するとダニ、イトミミズ等で200万頭程度。
・光学的顕微鏡を用いる事でしか分からない生物で10兆頭程度。