出典:https://www.pref.chiba.lg.jp/bousai/saigaitaisaku/kouhai/documents/kouhaishishin-r403.pdf 富士山等噴火に伴う降灰対策に関する対応指針 令和4年3月 千葉県防災危機管理部 危機管理課
■富士山噴火に係る現状と対策
山梨県富士山科学研究所所長・東京大学名誉教授 藤 井 敏 嗣 寄稿論文より一部抜粋
・富士山のマグマ成分
⇒富士山は 99%が玄武岩と呼ばれる粘性の低いマグマの活動で作られた火山
・次期噴火火口の位置の予測困難性
⇒最近 2300 年間には 80 回ほどの噴火が生じているが、
⇒いずれも毎回異なる地点に火口を新たに作っている。
・深部低周波地震
⇒富士山の直下 15km ほどの深さでは
⇒マグマや火山ガスなどの流体の移動に関連して深部低周波地震が生じると思われる
⇒毎月数回から十数回程度、発生している。
⇒しかも、2000年 11 月から 2001 年5月にかけては、毎月 100回を超える活発な活動があった。
⇒富士山深部のマグマ活動は止まっていないのである。
・いつ噴火しても不思議でない富士山
⇒地質調査によって確認された過去の噴火は、5600 年前まで遡ると、約 180 回である。
⇒すなわち、平均的には 30 年に1回は噴火を繰り返していたことになる。
⇒ところが、1707 年以降は 300 年以上噴火を起こしていない。
⇒平均的な噴火間隔の 10 倍の期間、静寂を保ったままである。
⇒このような状況はこれまで活発に活動を繰り返してきた活火山としては異常であり、
⇒その意味では今後いつ噴火を起こしても不思議はないと考えられる。
■富士山噴火の短期予測
・主に地震活動の高まりや地殻変動の観測に基づいて行われる。
⇒マグマ噴火が発生する前には、
⇒地下深くから高温のマグマが地表近くまで移動してくる。
⇒この際に、マグマの通路を作るために途中の岩石が破壊されて地震が起こるとともに、
⇒一定量のマグマが地表に接近するために、山体が膨らむなどの地殻変動が生じる。
⇒このような、通常とは異なる火山活動を把握して噴火の切迫性を推定する。
・富士山については 300 年以上噴火していないので
⇒地震計などの近代的観測機器で噴火前の異常現象を観測したことはない。
⇒このため、他の火山での観測例を参考にして噴火に備えることになる。
■富士山については
・地震計などの近代的観測機器で噴火前の異常現象を観測したことはない。
⇒このため、他の火山での観測例を参考にして噴火に備えることになる。
・桜島では
⇒ 1955 年以来、南岳あるいは昭和火口からの噴火が継続している。
⇒年間噴火回数は数百回から千回に達する。
⇒桜島の場合は地下6km 程度の深さにあるマグマ溜まりと山頂火口の間でマグマの通路が確立しているので、
⇒各噴火の前に地震活動が活発化することはあまり生じない。
⇒しかし、マグマの上昇に応じて、
⇒山体がごくわずかではあるが膨張する。
⇒このことを利用して、山麓の坑道内に設置された精密な伸縮計や傾斜計で
⇒地殻変動の連続観測に基づいて、
⇒噴火の直前予測が行われている。
⇒通常は山体の膨張が始まると数時間後に噴火が発生する。
・浅間山では
⇒2004 年9月以降の数ヶ月間に断続的に続いた噴火の際に、
⇒噴火の数時間から 10 数時間前には毎回山体が膨張する傾向が傾斜計に捉えられ、
⇒同時に山頂直下での地震活動が活発化することが確認された。
⇒このことを利用して、2009 年2月の噴火を予測し、
⇒噴火警戒レベルを引き上げて交通規制を行ったところ、
⇒13 時間後には予測通りに噴火が発生した。
・これらの例のように、
⇒富士山でも噴火の直前には山体膨張や地震活動の活発化を観測によって捉えて、
⇒噴火が切迫していることを把握することは可能であると考えられる。
■大規模噴火の例として、富士山のマグマと同様に、マグマの粘性が低いハワイ、キラウ
エア火山で発生した 2018 年噴火を参照する。
・キラウエア火山では 1983 年から 2018 年までの 35 年間、
⇒山頂近くの火口から溶岩を絶え間なく流出していたが、
⇒2018 年4月突然噴火が停止した。
⇒その後4月 30 日になって、山頂火口から東方に 20km ほど離れた山麓にある団地の直下で突然、地震活動が始まった。
・群発地震が継続するなか、
⇒5月3日には団地内の道路を横断する割れ目から水蒸気が噴き上がった。
⇒この割れ目は長さ約1km 程度であったが、
⇒まもなく水蒸気は 1200℃のマグマの噴泉で置き換えられ、
⇒割れ目からは溶岩流が流出し始めた。
・前兆現象が観測されてから
⇒3日間の猶予しかなかったのである。
⇒この噴火は、噴火のクライマックス期間も3ヶ月で、
⇒流出した溶岩流も 30 億トンと、
⇒富士山で歴史上最大の噴火である 864〜866 年の貞観噴火に酷似している。
⇒このことからすると、富士山で大規模噴火が発生する場合でも、
⇒前兆が現れてから数日程度で噴火に至ることは十分に考えられる。
■世界の火山で、玄武岩マグマという富士山に似た化学組成のマグマを主体とする火山の多くは、
・前兆となる現象が観測されてから
⇒噴火に至るまでには、長くても1-2週間しかなかったという事実は承知しておく必要がある。
・富士山と同様に玄武岩マグマを噴出した三宅島 1983 年噴火では、
⇒島の直下で地震活動が突然始まったが、
⇒1時間半後には山腹に数 km の割れ目が出現し、
⇒その割れ目から火のカーテンのようにマグマが噴き上げ、溶岩流が流出したのである。
・富士山でも最悪の場合、
⇒前兆現象が観測されて数時間以内に噴火に至ることもあり得ることは想定しておくべ
きであろう。
■玄武岩マグマの性質からすれば、
・地下で 10km 程度の距離をマグマが移動するには、
⇒条件さえ整えば1時間程度で済むのである。
■富士山噴火警戒レベル区分
出典:気象庁
■噴火警戒レベルの判定基準とその考え方
【レベル1の火山活動の状況】
概ね、火山活動は静穏な状態(地震は1ヶ月あたり数回~数十回程度で推移し、火山活動を示唆する地殻変動は認められず、噴気活動も認められない)。
ただし、火山活動に変化がみられるなどして、火山活動の状況や観測データの変化について伝える必要があると判断した場合、「火山の状況に関する解説情報」等によりお知らせする。
特に、レベル3への引上げ基準①の A~D のいずれか1つに該当する状況となるなど、今後の活動の推移によっては噴火警戒レベルを引き上げる可能性があると判断した場合、または判断に迷う場合は「火山の状況に関する解説情報(臨時)」を発表する。
(レベル1の火山活動の状況の解説)
富士山の「火山活動に特段の変化がない(静穏な)状態」を見積もるため、近年の富士山の火山活動の状況を簡単に振り返ると、
2002~2010 年頃にかけては、火山性地震(深部低周波地震は除く)は 1 ヶ月あたり5回程度と非常に少ない状態で推移していたが、
2011 年3月 15 日に静岡県東部(富士山の南部付近)で発生したM6.4 の地震以降、地震活動が活
発な状況となった。
2016 年以降は、地震発生前の状況には戻っていないものの地震活動は低調に経過し、概ね 1 ヶ月あたり 10 回程度で推移し、1 ヶ月あたり数十回程度を数える月も時折みられる程度である。
また、富士山では、深さ約 15km 付近を震源とする深部低周波地震が定常的に発生しており、時々まとまって発生することがある。
この現象は深部でのマグマの運動との関係性も指摘されており、富士山でも 2000 年から 2001 年にかけては深部低周波地震の活動が通常よりも顕著に増加していた時期があった(鵜川,2007)。
火山活動を示唆する地殻変動や噴気は、現在認められていない。2008 年から 2010 年にかけては GNSS 連続観測で地下深部の膨張を示すと考えられる変化が観測された(国土地理院,2011)。
以上を踏まえて、「火山活動に特段の変化がない(静穏な)状態」については、地震活動が比較的静穏であった 2016 年~2019 年のデータをもとに、以下のように見積もった。
・地震は1ヶ月あたり数回~数十回程度で推移
・火山活動を示唆する地殻変動は認められず、噴気活動も認められない
こうした静穏な状態を基準として、レベルを引き上げる可能性は低いものの火山活動に変化がみられたり、判定基準に記載されていない現象が発生したりするなどして、火山活動の状況や観測データの変化について伝える必要があると判断した場合には「火山の状況に関する解説情報」や「火山活動解説資料」によりお知らせする。
上記の深部低周波地震の多発や地下深部の膨張を示す変化の事例などは深部の活動であり、それだけでただちに噴火につながるものではないと考えられるが、火山活動の変化を示す現象であるとして「火山の状況に関する解説情報」等の発表を検討する事例といえる。
さらに、浅部での火山性地震が一時的に多発するなど、
後述するレベル3への引上げ基準のいずれか1つに該当するような現象が観測され、
「火山活動に変化がみられ、今後レベルを引き上げる可能がある段階」と判断した場合は「火山の状況に関する解説情報(臨時)」を発表する。
例として、1987 年 8 月に山頂付近でのみ有感であった地震が複数回報告されている。このような山頂付近ごく浅部での地震の活発化は「火山の状況に関する解説情報(臨時)」の発表を検討する事例といえる。
2011 年 3 月 15 日の静岡県東部(富士山の南部付近)の M6.4 の地震とその後の余震活動は、東北地方太平洋沖地震の4日後に発生し、本震―余震型で推移した。
火山性の地殻変動はみられず、
全国各地でみられた東北地方太平洋沖地震の誘発地震のひとつであって火山活動の活発化ではないと結論付けられたが、
今後同規模の地震活動があり、火山活動につながる可能性を否定できない場合は「火山の状況に関する解説情報(臨時)」を発表する。
【レベル2】
富士山では、噴火の発生が予想される火山活動活発化の過程でレベル2は発表しない。
ただし、火山活動が低下する過程などにおいてレベル2を発表する場合がある(予想される噴火による影響範囲が火口周辺に限定され、かつ居住地域から離れている場合)。
レベル2を発表する場合は、その際にレベル2からの引下げ基準を明確にする。
(解説)
噴火警戒レベルの区分けで述べたように、レベル2は噴火の可能性のある限定された火口周辺に警戒が必要な段階である。
富士山では、火山活動が活発化する過程では、噴火が発生する場所を特定することは難しいと考えられていることから、噴火の発生が予想される過程ではレベル2は発表しない。
噴火発生、または噴気、地熱域の出現などの後に、火山活動が低下していく過程では、噴火などの現象が発生した場所やその周辺に、当面噴火が発生する可能性が高い場所を特定できる場合がある。
そのうえで、予想される噴火の影響範囲が居住地域に重ならない火口周辺の範囲に留まる場合は、レベル2とする。
この場合は、噴火の可能性がある領域と警戒が必要な範囲を明示する。
レベル2における火山活動の状況を具体的に想定することは困難なため、レベル2からの引下げ基準を明記することも困難である。
噴火事象が発生し、レベル2に引き下げる段階で、改めてレベル2からレベル1への引下げ基準を検討することとする。
【レベル3】
(引上げ基準)
【火山活動が高まっており警戒が必要】
① 次の現象が複数観測された場合
A) 浅部の火山性地震の増加(24 時間で 100 回程度以上、あるいは 1 時間あたり
10 回程度以上)
B) 浅部での低周波地震、火山性微動が複数回発生
C) 浅部での地殻変動を観測
D) 明瞭な表面現象(噴気や地熱域の出現、地割れ・隆起・陥没などの地変)
② 浅部の火山性地震が急増するなど、①の A~D のいずれか1つの基準を大幅に上回
る現象が観測された場合
(引下げ基準)
上記の現象について、活発化の傾向が見られなくなった場合には、レベル2又はレベル1に引き下げる。
(解説:引上げ基準)
【火山活動が高まっており警戒が必要】
① 地下深部からマグマが上昇して噴火に至る場合、マグマの移動に伴って火山性地震や地殻変動などの現象が発生する。
宝永噴火シナリオで想定された噴火前の地震活動の活発化に加えて、
他の火山において噴火前に観測されている以下の現象をレベル3への引上げ基準とし、
これらが複数観測された場合にレベルを3に引き上げる。
A) 宝永噴火の前には、富士山の山中でのみ体に感じられるような地震が噴火10 数日前から継続的に発生したことが知られている。
これはマグマが地下浅部に上昇してきたことによる、浅部での火山性地震の増加に対応していると考えられる。
現在の富士山の観測体制を考えると、この段階では 24 時間あたり少なくとも 100 回程度、もしくは1時間あたり 10 回程度以上の地震が観測されることが推定される。
前述した噴火の先駆現象を参考にした玄武岩質火山においても、マグマの上昇による地震の群発と地殻変動が見られており、いずれも活動の初期段階で、この基準を大幅に上回る地震活動が観測されている。
B) 地下からマグマが上昇し、噴火に至る過程では、噴火前から浅部での低周波地震や火山性微動が観測されることがある。
伊豆大島の 1986 年噴火や伊豆東部火山群の 1989 年の噴火のような玄武岩質火山でも噴火の先駆現象と
してこれらの現象が観測されている。
富士山では、深部低周波地震はみられているが、浅部での低周波地震や火山性微動が観測されたことはない。
今後の火山活動が活発化していくなかで、このような現象が発生するか否かは不明であるが、レベル3へ引き上げる条件の一つとした。
なお、これまでの観測事例がないことから、少ない回数でもレベルの引き上げを検討する項目として設定している。
C) 地下浅部にマグマが移動した場合、傾斜計などによる高精度の地殻変動観測により、地震活動に同期した地殻変動が観測されると考えられる。
宮下・他(2007)の宝永噴火シナリオにおけるダイク貫入モデルをもとに富士山周辺に設置されている傾斜計観測点での変動量を求めると、
富士山の地下浅部へマグマの貫入しはじめる段階では、
山体周辺に設置した傾斜計で1μラジアン程度の傾斜変動が観測されると推定される。
しかし、観測される地殻変動の量は、貫入するダイクの位置などによる不確定性があるため、明確な数
値基準は設定しない。
現在の富士山における観測体制では、上記の傾斜変動の数分の一程度の変化は検出できる。
複数の観測点で捉えられた傾斜変動データの解析や、地殻変動に伴って地震活動があった場合には、その震源に関する情報などから、観測された地殻変動の変動源が地下浅部にあると推定される場合、他の観測項目と合わせて火山活動の高まりを示すものと判断した場合には、レベル3に引き上げる。
D) 現在、富士山の既存の火口や山体からは明瞭な噴気活動や地熱域といった火山活動の活発化を示す地表面の変化(地変)は確認されていない。
マグマや熱水が地下浅部に移動してきた場合には、マグマから離溶した揮発性成分などの火山ガスが先行して地表まで上昇することで、噴気活動や地熱域が発現する可能性がある。
富士山でも 1960 年代までは山頂火口南東縁の荒巻で噴気が確認されており、このような明瞭な噴気活動が再び見られるようになった場合は、火山活動が活発化している可能性がある。
② 玄武岩質マグマの場合、前兆現象の発現から噴火の発生までが短時間に起こる場合がある。
三宅島の 1983 年噴火では、噴火に先行する火山性地震の急増がみられたのは、噴火開始の2~3時間前からである。
地殻変動データなどは変化の有無を見極めるのに時間がかかる場合がある。
そのため、①で示した基準を大幅に上回るような火山性地震の発生がある場合は、地震活動のみでレベルを引き上げる。
その他の観測項目に関しても、特に顕著な変化がみられ、明らかに火山活動の高まりを示していると判断される場合には、他の観測データに基準を超えるような変化が認められない場合でもレベルを引き上げる。
(解説:引下げ基準)
レベル3への引上げ基準に示したような、火山活動の高まりを示す現象が観測されなくなり、火山活動に活発化の傾向が認められなくなった場合に、レベルを引き下げる。
詳細は以下のとおり。
火山性地震の発生回数や規模に低下傾向がみられたり、地殻変動に鈍化や停滞の傾向がみられたりするなど、火山活動の低下が認められた場合には、レベル1に引き下げる。
噴気活動や地熱活動(噴火後の場合も含む)は、出現してから完全に衰退するまでには数年以上の時間がかかる場合がある。
そのため、噴煙量の増大や地熱域の拡大といった活発化を示す傾向がなくなった段階でレベルを引き下げる。
その際、地熱活動が継続している特定の噴気孔(または火口)とその周辺に限定して引き続き警戒が必要な状況と判断される場合は、レベル2に引き下げ、当面噴火する可能性がある領域と警戒が必要な範囲を明示する。
【レベル4】
(引上げ基準)
【居住地域に重大な被害を及ぼす噴火の可能性】
① レベル3の基準①を満たす現象が観測されている中で、さらに「浅部の火山性地震の急増や規模増大」あるいは「浅部での膨張を示す顕著な地殻変動を観測(レベル3よりも規模大)」
② 居住地域から離れた場所で小規模の噴火が発生(ただし、噴火発生を経てレベル4・5からレベル3以下に引き下げた後に、一連の活動の範囲内で小規模の噴火が発生し、噴火活動の活発化が見られない場合は、レベルを据え置く。)
(引下げ基準)
〔噴火が発生した場合〕
噴火活動の推移、噴出物の影響範囲、観測データを評価し、居住地域に影響する噴火発生の可能性がなくなったと判断した段階でレベル3以下に引き下げる。
〔噴火には至らなかった場合〕
上記の現象がみられなくなり、火山活動の低下が認められ、居住地域に影響する噴火発生の可能性がなくなったと判断した段階でレベル3以下に引き下げる。
(解説:引上げ基準)
① レベル3の状態からさらにマグマが上昇すると、低周波地震や火山性微動を含む火山性地震の活動が活発化し、発生頻度の急増や規模の大きな地震の発生が観測されるようになると考えられる。
また、傾斜計などにより、浅部での膨張を示すことが明らかになるような、顕著な地殻変動が観測されることも予想される。
前述した噴火の先駆現象を参考にした伊豆大島や三宅島などの玄武岩質火山でも、ダイク状マグマの貫入により活発な地震活動や顕著な地殻変動が観測されている。
これらの火山では、噴火の先駆現象として明瞭な傾斜変化が観測されたことが報告されている。
富士山の場合も、宝永噴火シナリオのダイク貫入モデルをもとに傾斜計の変動量を推定すると、
マグマが海面下5km より浅部に上昇するような場合には、
山体周辺の観測点では、一部の傾斜計で 1~2μラジアンを超える程度の傾斜変動が起こると推定される。
観測される地殻変動の量は、貫入するダイクの位置や形状などによる不確実性があるため、
数値基準としては設定しないが、
レベル3の状況から、さらに浅部へのマグマの上昇を示す顕著な地殻変動が観測された場合にはレベル4に引き上げる。
② 後述するように、レベル4以下の状態で噴火が発生した場合は基本的にレベル5に引き上げることとしているが、
レベル3以下の状態で噴火して、監視カメラなどによる観測によって、噴火の発生場所や規模が特定できて、その時点で噴火の影響が明らかに居住地域には及ばないと判断できた場合は、
レベル4に引き上げる。
これは前述したとおり、噴火の発生した直後はその後の推移の予測が困難であるためレベル4とするものであり、
噴火が始まった後、火山活動などを評価した上でレベル3以下に引き下げた後は、一連の活動の範囲内におさまる規模の噴火(噴火の影響が居住地域に及ばない噴火)が発生した場合、
噴火活動の活発化が見られなければ、レベルを4に引き上げずに据え置く。
(解説:引下げ基準)
実際に居住地域から離れた場所で小規模の噴火が発生した場合は、
噴火の発生場所や発生している噴火の規模、噴出物の影響範囲に加え、噴火活動の推移、火山性地震
の発生状況や地殻変動の推移といった観測データから、火山活動を評価して、
居住地域に影響する噴火が発生する可能性がなくなったと判断した場合に速やかにレベル3以下に引き下げる。
噴火が発生せずに地震活動等が終息していった場合などでは、レベル4の引上げ基準①に該当するような地震急増・規模増大や顕著な地殻変動がみられなくなり、居住地域に影響する噴火発生の可能性がないと判断した段階で、可能な限り速やかにレベル3以下に引き下げることとする。
【レベル5】
(引上げ基準)
【居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が切迫】
次のいずれかの現象が観測された場合、レベル5に引き上げる。
① 火山活動が高まっている中で、「体に感じる地震を含む顕著な地震が頻発」しつつ、「地殻変動量が加速」
② 居住地域から離れた場所で小規模の噴火が発生した後、さらに噴火活動が高まるなど居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が切迫
【居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生】
③ 噴火が発生(居住地域から離れた場所で小規模の噴火と判断できる場合を除く)
(引下げ基準)
〔噴火が発生した場合〕
噴火活動の推移、噴出物の影響範囲、観測データを評価し、居住地域に影響する噴火発生の可能性がなくなったと判断した段階でレベル3以下に引き下げる。
〔噴火には至らなかった場合〕
上記の現象がみられなくなり、火山活動の低下が認められ、居住地域に影響する噴火発生の可能性がなくなったと判断した段階でレベル3以下に引き下げる。
(解説:引上げ基準)
① レベル4の状態からさらに噴火が切迫する段階では、火山性地震の規模や発生頻度のさらなる増大や、地殻変動の変化率の増加といった現象が観測されると考えられる。
体に感じる地震を含む顕著な地震の発生はマグマ噴火の先駆現象として宝永噴火や先駆現象を参考にした玄武岩質火山で記録されている。
宝永噴火では、噴火発生の前日頃から富士山から離れた小田原でも有感となる地震が複数回記録されている。
1986 年伊豆大島の割れ目噴火では噴火の約2時間前から、2000 年三宅島の海底噴火では、噴火の半日ほどまえからそれぞれ 100 回以上の有感地震が観測されている。
このような地震活動は地上付近へのマグマの移動を反映したものと考えられ、その場合には地震活動に伴って、
傾斜計や GNSS で観測される地殻変動データに、
変動量の加速的な増加や地殻変動源の浅部への移動が観測されると考えられる。
宝永噴火シナリオのダイク貫入モデルでは、地表付近までマグマが上昇してきた段階では、
GNSS 連続観測点で数 cm 程度の変動が検知されると推定される。
伊豆大島や三宅島でも噴火発生前までに 10μラジアン程度以上の顕著な傾斜変動が観測されている。
また、マグマが地表付近まで上昇し、急激な地殻変動が観測されるような場合には、
地割れなどの顕著な表面現象も観測されることもある(例えば、1986 年伊豆大島割れ目噴火、2018 年キラウエア火)。
このような現象が観測された場合には、居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が切迫しているとしてレベル5に引き上げる。
② 居住地域から離れた場所で小規模の噴火が発生している状況(レベル4)で、噴火の規模が大きくなるなどして、今後居住地域に影響を及ぼすような噴火の可能性がある場合にはレベル5に引き上げる。
③ レベル4以下の状態で噴火が発生した場合、レベル5に引き上げる。
監視カメラなどで噴火の発生を検知した場合、発生場所や検知できた噴火の規模から、その影響が明らかに居住地域まで及ばないと判断できた場合(この場合はレベル4)を除いて、噴石の飛散などによる影響が居住地域に及ぶ可能性があるとしてレベル5に引き上げる。
天候などにより視界不良の場合は、
噴火発生に伴う地震動や空振によって噴火を検知する。
この場合、噴火の発生場所やその影響範囲を瞬時に把握することは困難なため、噴火を検知した段階でレベルを5に引き上げる。
(解説:引下げ基準)
レベル5からの引下げは、実際に噴火が発生した場合は、噴火の発生場所や発生している噴火の規模、噴出物の影響範囲に加え、噴火活動の推移、火山性地震や地殻変動の状況から火山活動を評価して、居住地域に影響する噴火が発生する可能性がなくなったと判断された段階で行う。
噴火が発生せずに地震活動等が終息していった場合などでは、観測データから居住地域に影響する噴火発生の可能性がないと判断した段階で、可能な限り速やかにレベル3以下に引き下げることとする。
出典:https://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/STOCK/level_kijunn/314_level_kaisetsu.pdf 富士山の噴火警戒レベル判定基準とその解説
■噴火予知
・マグマが地下の浅い場所に上昇するとき、
⇒岩盤を割りながら上昇するため地震が発生する。
・また、上昇してきた際に山を膨らませるため、
⇒位置や傾斜に変化が起きる。
⇒地表では、噴気が増えたり温泉に異常が見られたりすることがある。
⇒これらを計測・観測することで、火山活動の変化をあらかじめ知ることができる。
・これらの観測精度が高まると、
⇒マグマは上昇したものの噴火には至らない現象の検知が、増える可能性があります。
⇒2015年8月、鹿児島県 の桜島では、約1000回の兆候を観測しました。
⇒火山に関する情報が出ているあいだは、防災意識を持ち続けることが重要です。
出典:https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/world/egao/taio/volcano/mechanism.html 東京海上日動
*GNSS観測点:全球測位衛星システムによって観測しているポイント
(GNSS:Global Navigation Satellite System)
■桜島爆発による特別警報発表に関する考察
・京都大学防災研究所研究発表講演会20230221(井口正人・災害調査報告)