⑤-3-5.減少する「献体」医師教育に危機? 未来の患者救う制度、意義を発信

出典:https://www.asahi.com/articles/ASTD63PH7TD6UDCB009M.html

朝日新聞 植松敬2025年12月10日 7時00分

■医療の発展のため、死後に自らの遺体を提供する「献体」

千葉大医学部では献体の登録者が減少している。献体は医学生の解剖実習を中心に、外科医の技術向上や医療機器の発展にも役立てられている。不足が続けば医療の根幹が揺らぐことにもなりかねず、同大は改めて献体の意義や遺体への敬意をもった取り組みを発信し、協力を呼びかけている。

「自分にできる医療への貢献を探す中でたどり着いたのが献体だった」。千葉市稲毛区の会社員、曽江啓一郎さん(63)は、10年ほど前に父親が腹部大動脈瘤(りゅう)の手術をする際、最先端の機器で手術が実現し、一命を取り留めたことがずっと頭にあったと語る。

■献体は、

・無条件・無報酬で自分の死後に遺体を大学の医学部・歯学部に提供する制度。

遺体は保管され、人体の構造を学ぶ解剖実習などに使われる。

葬儀は大学への遺体引き渡し前の数日以内であれば営むこともでき、遺骨は2~3年ほどで返される。

・千葉大医学部では、

同大に献体を提供する篤志団体「千葉白菊会」に申し込むことで献体の登録ができる。

同会の歴史は1965年にまでさかのぼり、初年度の在籍登録数は11人だった。83年の「献体法」の制定で認知度が上がり、2004年度には過去最多の2382人に。ただ、一度入会制限を設けたことを機に減少傾向に転じ、24年度は1823人だった。年間登録者は1980年代は250人を超える年もあったが、コロナ禍の2021年は50人ほどに減った。

同大大学院医学研究院の鈴木崇根・准教授(環境生命医学)は減少理由を「コロナ禍でコミュニティーが分断され、高齢者の間での口コミの広がりが弱まった」と分析する。

他にも長期の施設入所で家族と疎遠になったり認知症になったりし、献体登録が忘れられて火葬されるケースも増えているという。

■高まる需要 医師の技術向上、医療機器開発にも

・一方、献体の需要は高まっている。

同大は10年、献体された遺体で手術トレーニングや医療機器の開発などができる国内最高峰の設備が整った「クリニカルアナトミーラボ(CAL)」を設立した。

学生のほかに現役の外科医など学外の人の利用も多く、年間で700人程度が利用している。

鈴木准教授は「今の少ない入会者数では10年後に完全に献体が不足する」と危機感を語り、「献体は無条件・無報酬で行う究極のボランティア。

ご遺体の解剖で得たものを、自分は未来の患者さんの医療に生かすと断言できる覚悟で取り組むよう、医学生には伝えている」と話す。

「立派な医師に」献体38体に誓う 徳島大、遺族へ遺骨返還

出典:https://www.asahi.com/articles/ASQ5N7F0DQ5NPTLC003.html?iref=pc_rellink_01

朝日新聞 東孝司2022年5月21日 10時00分

徳島大学は20日、医・歯学部の学生の解剖学実習のために「献体」をした人の遺骨を遺族へ返す式典を徳島市の蔵本キャンパスで開いた。

 大学によると、今年度に遺骨を返還するのは38体(男性18、女性20)で、ほとんどが昨年度中の実習で解剖した献体。

この日はこのうち17体の遺族をキャンパスに招き、白木の箱に収めた遺骨を手渡した。あわせて文科相や両学部長名の感謝状を贈った。

式典の「お礼のあいさつ」で、医学部3年の姜泰成さんは「故人の篤志と遺族のご恩に報いられるよう、立派な医師になることを誓う」、歯学部4年の猿山善章さんは「故人は多くのことを教えてくれた。期待に応えていかないといけない」と話した。

式典後、遺族や学生、教職員ら約100人がキャンパス内の納骨堂前で献花をし、故人を追悼した。