出典:https://withonline.jp/with-class/house/topics-building/zyTwG with class 家族の時間をもっと楽しく 2026.08.30
大地震で「マンションなら安全」というのは大きな誤解です。建物が倒壊しなくても、1981年以前の旧耐震基準の物件では倒壊リスクが残り、新耐震基準の建物でもライフラインの停止や高層階での過酷な生活により「住めなくなる」事態が起こります。詳しい解説はwith classの特集記事をご覧ください。
■マンション特有の地震リスク
- 旧耐震の壁:1981年(昭和56年)以前に建てられたマンションは、大地震に対する倒壊リスクが高い。
- ライフラインの停止:建物が無事でも、停電や配管の破損により水やトイレが一瞬で使えなくなる。
- 高層階の過酷さ:エレベーターが止まると、階段での水汲みや上り下りを強いられる生活になる。
- 低層階の危険性:ピロティ構造(1階が駐車場やエントランスで柱のみ)の物件は、構造的に揺れや荷重の集中に弱い場合がある。
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■“1981年の壁”と、建物が無事でも住めなくなる理由
「鉄筋コンクリートだから大丈夫」「うちは頑丈だから安全」と、思っていませんか? 集合住宅には、戸建てとは異なる特有の「地震リスク」が存在します。
1981年以前の「旧耐震マンション」に潜む倒壊リスクはもちろん、たとえ建物自体が無事でも、配管の破損や停電で水とトイレが一瞬で使えなくなる現実。さらに高層階では、階段での水汲み往復という過酷な生活が待ち受けています。
都会のアパート・マンション住まいが知っておくべき、大地震から「生き残るために知っておきたいこと」を解説します。
■大地震時に損壊する旧耐震マンション
鉄筋コンクリートのマンションならば地震時には安心なのでしょうか? いえ、そうではありません。ここでも1981(昭和56)年以前か以降かという、新耐震の大きな溝があります。
そもそも、この1981年に新耐震基準が設けられたきっかけは、1978年に起きた宮城県沖地震です。宮城県沖地震はマグニチュード7.4、震度5という地震で、死者16人、重軽傷者は1万人を超えました。住家の全半壊が4385戸、一部損壊が86010戸という多大な被害が出たのです。
当時の建築基準法いわゆる旧耐震基準は、「震度5強の揺れに対して建築物が倒壊しない」という前提でした。しかしながら、この時の地震では古い民家だけでなく、戦後に建設された近代的なビルや、団地、商店、学校などの鉄筋コンクリート造の建物が見るも無惨に崩壊し、ビル1階のコンクリートの柱が折れ、中から鉄筋がはみ出しているという、建築関係者にとってショッキングな結果が、あからさまになりました。
これを機に、これまでの耐震基準を大きく見直し、まず震度6強から7の大地震に対応することになりました。震度6強から7の地震でも建物が倒壊・崩壊しない構造であることを求めようというのが一点です。
次に、二次設計という考え方が導入されました。それまでの旧耐震で検討されていた、通常の垂直荷重に対する建築の抵抗力である「許容応力度計算」という一次設計に加えて、建物が横から受ける力に抵抗できるように、震度6から7の大地震時に建物が倒壊しないかを確認する「二次設計」として、「保有水平耐力の安全性の確認」という検証が義務付けられました。
これは阪神・淡路大震災の折にはっきりと結果が出ています。甚大な被害を及ぼしたエリアは旧耐震以前の古い建物が数多く残るエリアでした。その一方、新耐震基準で建てられたビルやマンションは、旧耐震に比べると被害は少なかったのです。
たとえ鉄筋コンクリート造であっても、大破した建物の多くは旧耐震基準のもの。さらに倒壊した建物における旧耐震での設計が占める割合は90%であったそうです。
このことが何を意味するかというと、同じコンクリートや鉄筋といった素材を使っていても、耐震基準や構造計算によらなければ、地震に耐えられるほど強いとは限らないということです。
■建物は無事でも設備系統が損壊する可能性
鉄筋コンクリート造の建物では、柱や壁の破壊だけが致命傷ではありません。それは設備系統の崩壊です。高層化された建物ではマンションに限らず、上の階から下の階に向かって建物の排水を流していく排水管が設定されています。そして、上水は屋上の給水タンクに溜めた水を上から下に重力式で送る給水管、もしくは地下や地上に溜めた水を加圧ポンプで上げる給水管の存在があります。これらは、定期的なメンテナンスや冬期の凍結にも配慮して、各階の建物の壁の一部にパイプシャフトと呼ばれる縦穴を通してつながっています。
同じ階層では横引き配管でパイプシャフトまで排水管を集めて、縦の配管で外までつなぎ合わせているため、排水管には非常に多くのつなぎ目があります。同時に、集めた排水管の先は段々と太くなって、最終枡に合流するときには直径も10センチ以上、約20センチにはなります。
同様に、上水の給水管は2センチほどのパイプがやはり上下につながり、各階では横につながっています。排水管が太く、給水管が細いのは流れる内容物の違いです。上水である給水管に流れるのは汚物ではなく液体だけです。
そのため、古い建物の給水管では13ミリという細いものが使われています。古い配管は鉄管のこともあり、管の中についた錆でさらに口径が減っているものなどもあるので、大規模修繕などのタイミングに合わせて、老朽化した配管は順次新しいものに変えられています。
また、各戸の配管を集めて建物の外までつなぎ合わせているので配管同士の間にスペースはあまり取れません。なるべく隙間なく配管を固定する傾向にあります。そのため、地震の揺れに対する余裕もあまりないのです。
建物の構造が揺れるということは、それに付随する配管も揺れるということです。建物の変位に追従できなかったり、折れ曲がりが多い配管や古い配管は、地震時に破損したり、折れたりします。
そうなると、破損箇所より上の階の生活に支障をきたします。また、給水管や排水管が無事でも、加圧ポンプや給水ポンプ、排水ポンプが停電で作動しなくなってしまうと、それだけでマンションの設備系統はダウンしてしまいます。
■高層マンションで設備系統が使えなくなるとほぼ生活できない
結果として大型の高層マンションで数十世帯、数百世帯が入る建物では、数百人分の給水と排水の問題をかかえます。具体的には飲み水の確保とトイレの処理です。
また、高層マンションの階段で上り下りしながら無理なく生活できるのは、5階から6階までが限界でしょう。ましてや10リットル、20リットルの給水タンクを両手に持ったり、背負ったりして、何度も階段を上るのは非常に過酷です。
そのため、建物の耐震強度ももちろん重要ですが、設備配管に十分な耐震性が確保されているかどうか、これもマンションでは重要な点です。最近の設備工事では、伸縮や曲折に対して丈夫なポリエチレン管や、パイプ固定が可能な揺れを抑える制震金具、建物と地盤の境目のズレにも対応する耐震配管の使用も増えてきました。
しかしながら、やはり築年数を経た古い建物では対応が遅れているものがほとんどです。
そもそも、各街区の道路に埋まっている公共下水管や上水管が地震で破損してしまった場合には、そこに接続する建物側の設備が最新でいかに丈夫でも、断水や排水不可となることは否定できません。昨今、これらの古い公共インフラが、築60年を経て老朽化の極みに達しています。
2025年に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故のような事故が今後は多発するだけでなく、地震時にインフラの破損が同時発生し、その街区全体で上水や排水に不便をきたす可能性は大いにあります。
■ベランダの物置化で脱出経路がなくなる
地震時に倒壊の被害もなく家財の転倒もなく助かったとしても、次に大きな問題となるのは室外への脱出です。震度6以上の大きな横揺れで壁が歪むと、玄関ドアが開かなくなります。マンションの玄関ドアは、かつては鉄製に塗装を施し、のぞき穴と新聞受けがつき、ステンレス製のドアノブに鍵とチェーンロックが付いたものが一般的でした。
大きさも幅が80センチぐらいで高さが1メートル80センチぐらいでしょう。そして、このスチールドアと枠の隙間は3ミリです。つまり、扉か枠が3ミリほどズレると、ドアは開かなくなるのです。
これは地震以外の経年劣化でも起きることがあります。丁番の緩みによってドアと枠が擦れて、一部のペンキが剥がれて銀色の金属色が見えていたりするのが、劣化の目安です。老朽化による扉の傾きは徐々に起こるため、擦れすぎだなと気付いた時点で修理すればすぐに直ります。しかし、地震で歪んで扉が押し付けられた場合は、普通の力でドアノブを引っ張っただけでは、まず開きません。
そして、鉄の扉は室内の木製ドアと違って、蹴ったり体当たりしても壊れません。
なぜ頑丈な鉄を使用しているのかというと、階数の多い大規模なマンションの出入り口と廊下や階段は防火区画にするという決まりがあって、防火扉の使用が義務づけられているからです。そのため、割って脱出できるようなガラス扉も使われていません。鉄製の扉をこじ開けるのは至難で、バールをもって扉の隙間を拡げ、ドアノブを壊すなどの窃盗団さながらの技術と力が必要です。
建築工事専門家でなければ鉄板を切断する回転式サンダーなども自宅に備えていないでしょう。そもそも、そのような電動工具を不慣れな人が使うのは大変に危険です。
そのため、こうした古い鉄製の扉がマンションの玄関ドアである場合は、地震を感じたら火を消し、すぐに玄関扉を少し開ける必要があります。
もし、地震後に室内で火災が発生したりした場合には、唯一の脱出路である玄関ドアが開かなくなると、万事休すです。ひとまず、バールを玄関の脇の靴箱や傘立てに用意し、こじ開ける方法を建築の専門家に教えてもらっておくことをおすすめします。
耐震性の高い鉄製以外のドアに変えるという方法もありますが、大規模なマンションや賃貸マンションなどの場合には費用も時間もかかり、なかなか個別の交換には応じてもらえない可能性もあります。そのため、ドアと枠の隙間を確保するような耐震丁番という製品などを検討しておくのも良いでしょう。ただ、マンションにおいて避難可能なのは玄関だけではありません。建築法規上でも、もうひとつの脱出口として想定されているのが、ベランダです。
