⑤-5.ガンの自由診療~「泣いてる方がいっぱいいる」自由診療のあり方に警鐘~(裁判事例)

■「うちは完治専門」医師の言葉信じ“がん患者”が440万円自由診療受け転移…裁判所は“説明義務違反”認めたが賠償額75万円、原告「納得できない」

出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/68d310817a38d6c30d33615e374a2b67f2a070ea 弁護士JPニュース 2026年9月7日

「ほとんど治ります。私を信じてください」——。乳がんを患う女性が、医師の言葉を信じ、わらにもすがる思いで高額な自由診療「ANK免疫細胞療法」を受けることを決断。約440万円を支払ったが、期待した効果は得られなかった。

女性と家族は「医師の説明が不十分だった」などとして、クリニックを運営する医療法人社団などを相手取り約760万円の損害賠償を求めて提訴。東京地方裁判所は8月27日、クリニック側の説明義務違反を認め、医療法人社団に対し、75万5000円の支払いを命じる判決を言い渡した。

一方で、裁判所はANK療法そのものが医学的に無効とまでは認定せず、説明義務違反と治療費全額の損害との因果関係は否定した。請求額の1割にも満たない判決に、女性は4日に行った会見で「納得できません」と声を震わせた。

「延命ではなく完治専門ですから」医師の言葉で決断

判決文などによると、原告の女性は2017年に乳がんと診断された。手術や化学療法などの標準治療を受けていたが、副作用が強く、2023年8月頃に治療を中止。そんな中、元プロボクシング選手の動画で「ANK免疫細胞療法」を知り、関心を持ったという。

同年12月、被告となった医療法人社団が運営するクリニックを受診。医師から説明を受けた。

医師は、ANK療法について「あらゆる癌患者に対して有効」であり、分子標的薬「ハーセプチン」を併用すれば「更に効果を高めてくれる」などと、その有効性を強調した。記者会見で原告女性は、当時の医師の様子を次のように語った。

「悪いことは一切言わない。いいことだけしか言いませんでした。『うちは延命ではなくて完治専門ですから、ほとんど治ります』『私を信じてください』と言って、立ち上がって握手を求めてきたんです。この先生なら安心できると信じてしまいました」

女性はその場で診療契約を結び、ANK療法1クール(12回)分の費用として442万4000円を支払った。

治療後にがんが悪化、医師は「もうワンクールかな」

しかし、2024年1月から治療を受け始めたものの、女性のがんは快方には向かわなかった。同年3月中旬頃から痛痒さを感じるようになり、別の病院で検査を受けたところ、乳がんが皮膚やリンパ節に転移していることが判明した。

治療中に効果が見られないことを不安に感じた女性の息子が、医師に「もしこのまま最後までやり続けて効かなかったら、どうしたらいいんですか」と尋ねた際のエピソードを、記者会見でこう明かした。

「先生は『うーん、もうワンクールかな』と言って、指を丸めてお金のジェスチャーをしたんです。母が『2回やったら1000万円ですよ。芸能人じゃあるまいし』と言うと、『ははは』と笑っていました。お金のことしか考えていないんだと、すごく驚きました」

裁判所は「治療効果を誤認させる説明」と指摘

裁判で原告側は、ANK療法は効果が不確実で医療水準として未確立な治療法であり、クリニック側はメリットを過度に強調し、デメリットを具体的に説明する義務を怠ったと主張した。

これに対し、被告の医療法人側は、ANK療法は乳がんにも効果があるとする症例報告が存在すると反論。効果に個人差があることや、抗腫瘍効果が期待できない場合があることなども説明していたと主張していた。

しかし原告らによれば、治療後、がんの転移が判明してからクリニック側と面談した際には、医師はデメリットを十分に伝えなかったことを認め謝罪したといい、この時の録音データも裁判所に提出したという。

東京地裁は判決で、ANK療法について、ランダム化比較試験などを経ておらず乳がんに対する症例報告も限られていることからエビデンスレベルは高いものであるとは言い難い」と評価した

その上で、医師の説明は、ANK療法に「相応の医学的根拠や治療成績があると受け取られる説明」だったと認定効果に個人差があるといった点は口頭で触れず同意書を渡しただけだったことなどから、「治療効果を誤認させるような説明をしたというべきである」として、説明義務違反を認めた。

しかし、治療費と説明義務違反との因果関係については「標準治療を断念していた原告が、効果が出る可能性がわずかであってもその可能性に懸けてANK療法を実施するとの選択をした蓋然性は相応にある」として否定。賠償額は、原告に適応がなかったハーセプチン療法の費用と慰謝料、弁護士費用の合計75万5000円にとどまった

泣いてる方がいっぱいいる」自由診療のあり方に警鐘

記者会見に同席した、がん治療の専門家である勝俣範之医師(日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科)は、ANK療法の現在のエビデンスレベルは5段階で最も低いレベル5症例報告体験談)」に過ぎず、研究段階の治療であると指摘。

「未確立の治療に関しては、研究レベルのものであることを患者にしっかり説明しなければならない。重要なのは、患者が自分で治療を受けるかどうか選択できるだけの正確な情報を得ることだ。今回の判決で裁判所が、クリニック側の説明が不十分であったと認定したことは医学的にとても大事なことだ」と判決の意義を語った。

一方で原告の女性は、クリニック側の説明義務違反と治療費全額の損害との因果関係が認められなかったことについて「納得できません」と述べ、「私が治療を受けている時にも、隣でご夫婦がANKを勧められているのを聞きました。正しい説明を聞かされないまま自由診療を受けて泣いてる方がいっぱいいると思います」と声を震わせた。

原告らは、代理人弁護士と相談し控訴する予定だという。

弁護士JPニュース編集部では、判決の受け止めなどについて被告の医療法人社団にも尋ねたが、「弁護士を通じて訴訟に対応しているため、回答は控える」とのことだった。

【図】「新しい治療」が『標準治療』になるまでの流れ

<転記情報>

⑤-1-1.「標準治療」は並の治療ではない ボクシングなら現在のチャンピオン【医師が解説・がんキーワード】~AERAdot.の記事を転記~

今回解説するキーワードは、「標準治療」「ガイドライン」「がん相談支援センター」です。

キーワード【標準治療

現在、保険診療でおこなうことができる最良の治療

効果や安全性が研究により科学的に証明されており、多くの患者に推奨される治療。

がんごとに診療ガイドラインによって定められより優れた治療法が証明されるとアップデートされる  

標準治療というと、一般的に広くおこなわれている標準的な治療、いわゆる「並(ふつう)の治療」と受け取りがちですが、

がんの標準治療とは

その時点で科学的な方法によって有効安全であることが確認されていて多くの人にすすめられる最善最良の治療」という意味で使われます

「その時点で」というのがポイントで、医療の進歩により、さらに優れた治療法が生まれ、同じように科学的な根拠に基づいて、現在の標準治療より優れていることが証明されれば、その新たな治療が標準治療となります。

つまり、標準治療は、時代とともに変化するもの国立がん研究センターがん対策情報センター本部、副本部長の若尾文彦医師はこう話します。

「ボクシングのタイトルマッチのようなもので、

挑戦者(新たな治療法)が勝つこともあれば、

チャンピオン(現在の標準治療)が防衛することもある。

ある意味、標準治療は現在のチャンピオン治療と考えていいでしょう」  

一方で、「最新治療」「最先端の治療」が「最良の治療」と考える人もいるでしょう。

しかし、最新治療はまだ研究段階で、

本当に効果があるか、安全かどうかは検証中のため「新しい治療を受けたい」と考える場合には、

より強い副作用などのリスクについても理解しておく必要があります。  

また、標準治療がないがんもあります。 「希少がんなど、数が少ないがんでは標準治療として認められるまでの科学的な根拠がそろわないこともあるためです。ただし、それらのがんを専門にみる医師の中では、経験上、標準治療といえるような治療法があり、その患者さんに最良と考えられる治療法が提案されるはずです」(若尾医師)  

同センター東病院呼吸器外科長の坪井正博医師は、「最良の治療は患者さん一人ひとりで異なり、それを知るのは主治医」と言います。

「標準治療は効果や安全性が証明されていて、起こり得るリスクもある程度わかっていて、多くの人にすすめられる治療ですが、あくまでも目安の一つ。

例えば、肺がんの1期では手術が標準治療ですが、

年齢や体力により手術ができない人もいれば、どうしても手術はしたくないという人もいます。

そういう人には、『放射線治療という選択肢もあります。

ただ、その場合は極早期がんを除いて2割ぐらい再発の可能性があります』などと説明し、そちらを選択する患者さんもいます」  

大切なことは、医師と患者が十分に話し合って

患者が理解した治療法を決めていくことだと

今回取材した二人の医師は口をそろえます。

まずは医師がその患者のがんの状態や、最良と思われる治療法を提案し、メリットとデメリットを伝えます。患者も、自身の希望と、不安や疑問があれば医師に伝えることが必要です。その上で、十分に相談し、最終的には患者が納得して治療法を決めることが大切です。

「がんの治療で最優先すべきは、がんを治すこと。ただ、せっかく命が助かっても患者さんが『こんなはずではなかった』と思ってしまっては本末転倒ですので、納得して治療法を決めるということはとても大切なことです」(若尾医師)

■キーワード【ガイドライン】

科学的な根拠に基づいて推奨される治療法などを提示する文書、「診療ガイドライン」のこと。

関係する専門学会などが多くの文献をもとに作成し、診療の場で医師が患者に治療法を提示する際の判断材料の一つになる。  

医療で使われるガイドラインは、患者と医療者をサポートすることを目的に作成された文書で、治療法を選択する際などに判断材料の一つにできるものです。

「ただ、『これが絶対!』というバイブルではなく、

あくまで『こういう状態の患者さんでは、こういう治療法が良いとされる根拠がありますよ』ということを示すもので、

それを使って医師と患者さんが話し合うための材料のひとつと考えましょう」(若尾医師)  

治療選択の際に、

ガイドラインとあわせて重要な役割を果たすのが「取扱い規約」という文書です。

これはがんの種類ごとに、

ステージ(病期)、

つまりがんの進行度を決めるルールを定めたもの。

病期はがんの大きさや広がり、転移の有無や程度などによって決められ、

ガイドラインでは、病期によって推奨される治療法を記載しています。

ひと言で「がんの治療」といっても、

がんの種類やがん細胞の性質、病期などによって大きく異なるため、

患者が治療法を考えるとき、

自分のがんがどのような種類で、

どのぐらい進んでいるかを知ることはとても大事です。  

もともとは医療者向けに作成されたガイドラインですが、

乳がんや胃がん、大腸がん肺がん、子宮がん、卵巣がんなどは、

患者向けのガイドラインやガイドブックも作成されているため、参考にするといいでしょう。

キーワード【がん相談支援センター】

全国のがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院などに設置されている、

がんに関わる無料の相談窓口。

診断前から治療後までいつでも、誰でも利用でき、看護師や医療ソーシャルワーカーなどが相談に応じる。

相談は匿名でも可能。

その名の通り、がんについての相談を受け、支援してくれる機関です。

全国の「がん診療連携拠点病院」や「地域がん診療病院」など、がんの診療をおこなう病院に設置されています。

いちばんのポイントは、「誰でも、いつでも、無料で相談できること」と若尾医師は話します。

「その病院にかかっていない人や患者さんの家族など、誰でも相談でき、相談料はかかりません。

電話で相談することもでき、匿名での相談も可能です。相談内容が主治医などに本人の同意なく知られることはないので、安心して相談できるでしょう」  

同センターでは、がんの知識をもつ看護師や医療ソーシャルワーカーなど、国立がん研究センターで研修を受けたスタッフが相談にのります。

がんと診断されたときはもちろん、がんと診断される前の「がんかもしれない」と不安を感じているときから、治療中、治療後の療養生活、社会復帰後まで、いつでも相談することができます。  

相談内容は、がんという病気や治療のことはもちろん、生活、お金、仕事、家族や育児のことなど、どのようなことでも相談が可能です。

以下に、相談内容の一例を示します。

●病気と治療について  

・自分のがんはどういう病気なのか  ・どのような治療法があるのか  

セカンドオピニオンを受けたい  ・副作用が心配  ・緩和ケアについて知りたい

生活や仕事について  

・生活で注意すべきことは?  ・治療費はどのぐらいかかるのか  ・なるべく自宅で暮らしたい  ・仕事を続けながら治療ができるか  ・職場へがんについてどう伝えるか

利用できる制度やサービスについて  

・治療費や生活費の助成・支援制度を知りたい  ・介護や福祉サービスについて

家族について  

・子どもの世話や親の介護はどうすればいいのか  ・子どもに病気のことをどう伝えたらいいか  ・家族に心配をかけたくない  ・がんと診断された家族にどう接すればいいのか

医師との関係について  

・医師の話が難しくて理解できない  ・医師に伝えたいことが言いにくい  ・医師と相性がよくない気がする

●気持ちについて  

・何をどうしたらいいかわからない  ・とにかく不安で仕方ない  ・治療の副作用が心配   ・手術が怖くて眠れない  ・誰かに話を聞いてほしい  ・落ち込んで何もする気にならない

妊娠・出産について  

・将来、妊娠・出産できるのか  ・治療による性生活への影響を知りたい

AYA世代(15~30歳代)について  

・学校には行けるのか  ・友達に知られるのが不安  ・就職活動はどうすれば  ・仕事を続けられるか  ・育児と治療を両立できるか     

など がん相談支援センターを探したいときは、国立がん研究センターの「がん情報サービス 相談先・病院を探す」(https://hospdb.ganjoho.jp/)で最寄りの施設を検索するほか、

「がん情報サービスサポートセンター」に電話で問い合わせることもできます(0570-02-3410〈ナビダイヤル〉/03-6706-7797、平日10~15時)。 (取材・文 出村真理子)

●がん情報サービス https://ganjoho.jp

●がん情報サービスサポートセンターについて https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/support_center/guide.html  

がん電話相談 電話 0570-02-3410(ナビダイヤル)/03-6706-7797  受付時間:平日10~15時(土日祝日、年末年始を除く)  

相談料金:無料  

通話料金:利用者が負担。ナビダイヤルは全国均一料金  

がんチャット相談(スマートフォンやパソコンからウェブサイトで相談ができる)  https://plaza.umin.ac.jp/~CanRes/system/system-activities/  

受付時間:平日12~15時(土日祝日、年末年始を除く)  

相談料金:無料  相談時間:原則20分以内  登録:不要

■参考情報:①.書籍

世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療

勝俣範之(著)、大須賀覚(著)、津川友介(著)

目次抜粋

はじめに がんになったらどの治療法を信じればよいのか

第1章
「最高のがん治療」はどのように決められるのか

1万個に1個しか残らない! がん治療薬を選抜する4つのプロセス
「新しい治療法であるほど効果が期待できる」わけではない
「余命2年のところ5年も生きた奇跡の治療法」を信じてはいけない …など

第2章
「最高のがん治療」では何をするのか

効果を徹底的に検証された3つの標準治療
「日本での承認の遅れ」はわずか0.4年
「緩和ケア」は最後の手段ではなく、第4の治療法
「免疫細胞療法」とオプジーボはまったく別物
「免疫療法=副作用が少ない」は間違い …など

第3章
食事やサプリでがんは治るのか

糖質制限でがんは治るのか
「コーヒー浣腸」には死亡例も
治療後のがん患者さんがとるべき理想の食事とは
サプリは抗がん剤の効果を弱める可能性がある …など

第4章
どうしてがんができるのか

タバコを吸わなくても、親ががんでなくとも、がんになる人がいる
がんの原因は「プログラムエラー」の蓄積
がんができる3大要因とは
「がんになったのは過去の生活習慣のせい」は言い過ぎ …など

第5章
「トンデモ医療」はどうやって見分けるのか

教育レベルや収入が高い人ほど、怪しいがん治療法にだまされやすい
科学的根拠に基づいた8つの情報源
トンデモ医療を見分ける6つのポイント …など

第6章
どうやってがんを見つけるのか

がんが疑われる4つの症状
受けるべきがん検診はこの5つ
前立腺がんの60%は進行しない …など

第7章
がんを防ぐために普段の生活で何ができるのか

がんになるリスクを上げる2つの食品
がんになるリスクを下げる5つの食品
お酒は少量なら体によい? 悪い?…など

おわりに この本は「情報のワクチン」である