出典:https://note.com/hiro____note/n/nd11577c5e462 2026年9月13日
台風の夜、14階のエレベーターが止まった。復旧まで19時間。あの夜わかったのは、「マンションの高層階の停電では、防災グッズの優先順位が戸建てと全然違う」ということだった。水も食料も家にあったのに、いちばん困ったのは階段を14階ぶん往復する体力だったのだ。
この記事では、実際に階段を6往復して組み替えた「マンション高層階の台風・停電対策」を、優先順位つきで書く。
この記事でわかること
- マンション高層階の停電で、最初に詰むのは水・食料ではないという話
- 階段往復を前提にしたときの、防災グッズの優先順位の組み替え方
- 実際に買い直した8アイテム(持ち運べる重さ・容量の具体値つき)
- 台風接近前の「充電と水汲み」の締め切り時刻
マンション高層階の停電で、最初に詰んだのは「水」ではなく「上げる手段」だった
結論から書く。高層階の停電で最初に詰むのは、水や食料の備蓄量ではなく、それを運ぶ・上げる手段だ。
台風が抜けた翌朝、うちのマンションは受水槽ポンプが止まって断水した。管理組合が1階のエントランスに給水車を手配してくれて、そこまでは良かった。問題はそこからだ。
2リットルのペットボトル6本入りの箱を抱えて、14階まで階段。踊り場で2回止まった。汗が目に入る。3往復目で腿が笑って、4往復目はもう「今日はこれで終わりにしよう」と自分に言い訳した。
トイレを流す水は1回あたり6〜8リットル要る。家族3人が一日を過ごすには、飲料だけでなく生活用水が数十リットル必要になる。つまり、運搬回数が備蓄量の上限を決めてしまう。
我が家の防災リュックには、アルファ米が12食分入っていた。一度も出番はなかった。代わりに一日中考えていたのは「あと何回あの階段を上れるか」だった。
戸建て前提の防災リストが、高層階では効かない理由
一般的な防災チェックリストは、玄関を開ければ地面がある家を想定している。高層階には、そこに3つの条件が乗る。
- 垂直移動が全部コスト:買い出しも給水も、片道5分の階段がつく
- 断水がセットで来る:多くのマンションは電動ポンプで揚水しているため、停電=断水になりやすい
- 窓が開けられない:台風中は風圧と飛来物で開けられず、停電で換気扇も止まる
階段6往復で組み替えた、防災グッズの優先順位トップ3
新しい順位はこうなった。1位が電源、2位が運搬、3位がトイレ。食料は正直4位以下に落ちた。
1位:ポータブル電源(スマホより「情報と光と冷蔵庫」のため)
停電で真っ先に効いたのが電源だった。スマホの充電はもちろんだが、実際にありがたかったのは扇風機とルーター、そして復旧が長引いたときの冷蔵庫だ。
9月の台風は、去った翌日がたいてい蒸し暑い。窓も開けられず換気扇も止まった部屋の体感温度は、記録によれば室温31℃。そこでサーキュレーターを1台回せるかどうかで、夜眠れるかが決まった。
容量は700Wh前後が現実解だと思っている。これで扇風機とルーターとスマホを一晩以上まかなえて、重さは8kg程度。階段で運べるギリギリの重さという基準がここでも効く。

- 700Wh前後・AC出力500W級なら、扇風機+Wi-Fiルーター+スマホ複数台を丸一日まかなえる。「停電のうちに情報が切れる」という最悪を防げる
- 重さ8kg前後は、いざというとき階段で下ろせる/親の家へ持っていける上限。1000Wh超は安心だが12kg級になり高層階では現実的に動かせない
- こんな人向け:普段はキャンプや車中泊でも使いたい人。年1回使うかどうかの箱に数万円は高い、と感じるなら、平時に使い道があるモデルを選ぶのが後悔しないコツ
正直に書くと、ポータブル電源は防災グッズの中でいちばん高い。私も買うまで2年迷った。ただ、19時間の停電を経験した今は「保険料としては安かった」と言い切れる。
2位:運搬手段(キャリーカートを買ったのは完全に階段のせい)
意外かもしれないが、2番目に買い足したのはカートだ。給水袋を抱えて階段を上るのと、カートで1階まで下ろして共用廊下を転がすのとでは、腕の消耗がまるで違う。
階段そのものは担ぐしかないが、エントランス〜給水車〜エレベーターホールの水平移動だけでも道具に任せられると、往復回数を1〜2回増やせる。これは水にして20リットルぶんだ。

- 耐荷重50kg級の折りたたみキャリーなら、2Lペット6本箱を2箱積める。腕で抱えるより明らかに往復が楽になる
- 平時は買い出しやベランダの土袋運び、キャンプの荷運びに使える。防災専用品にしないのが継続のコツ
- こんな人向け:エレベーター停止時に高齢の家族や小さい子がいる世帯。荷物を減らせるぶん、手を空けて人を支えられる
- ただし階段では結局担ぐので、軽量モデル(本体3kg台)を選ぶこと。頑丈さを求めて重い鉄製を選ぶと本末転倒になる
3位:携帯トイレ(断水した高層階で、いちばん切実だった)
水が上げられないと、トイレが止まる。これがいちばん生活の尊厳に関わった。
「風呂の残り湯で流せばいい」という定番の助言は、断水していない前提の話だ。うちは残り湯を使い切ったあと、その日の夜から携帯トイレに切り替えた。凝固剤の吸水スピードと消臭力で、夜の快適さがはっきり変わる。

- 凝固剤+防臭袋のセットなら、可燃ごみ収集が止まっている間も室内の臭いを抑えられる
- 1人1日5回×3日=15回が目安。家族3人なら50回分がひとつの基準になる
- こんな人向け:マンション・アパート住まい全員。庭のない家では代替手段が存在しない
- 保管場所は取る(50回分で段ボール半分)。トイレの吊り戸棚に入る分量かどうか、買う前に測っておくといい
停電の夜、部屋を「暮らせる状態」に戻した4つの道具
優先順位の上位3つで生存は確保できる。ここから先は、その19時間を耐えるだけの時間から普通の夜に戻すための道具だ。
手を空けるヘッドライト
階段を荷物を持って上るとき、懐中電灯は持てない。これは想像以上に致命的だった。2往復目でスマホのライトを口にくわえて上って、心底みじめな気分になった。

- 両手が完全に空くので、荷物の運搬・子どもの手を引く・手すりを掴むが同時にできる
- 赤色灯モードがあるモデルは、夜間の室内で家族を起こさずに動ける
- こんな人向け:階段移動が発生する集合住宅の人。ランタンより先に買うべきだと本気で思っている
部屋全体を照らすLEDランタン
一方、部屋で過ごす時間にはランタンがいる。天井に向けて置く、いわゆる面で照らす明かりだ。スマホライトの直射は、2時間もすると全員の機嫌が悪くなる。
暖色に切り替えられるものを選んでほしい。白色光のままだと、部屋がずっと非常時の顔をしている。暖色にした途端、子どもが「キャンプみたい」と言って笑った。あの瞬間が、うちの停電のいちばんの転機だった。

- 電球色に切り替えられるモデルは、非常時の緊張感をやわらげる。小さい子や高齢者がいる家庭ほど効く
- USB充電式ならポータブル電源から給電でき、乾電池の在庫管理から解放される
- こんな人向け:家族がいる世帯。一人暮らしならヘッドライト1本でも足りるが、複数人で過ごすなら面の光が必要
停電の夜の暑さ対策に、充電式の扇風機
台風一過の蒸し暑さは甘く見ないほうがいい。ポータブル電源があってもエアコンは動かない(消費電力が桁違いだ)。現実解は充電式のサーキュレーターか扇風機になる。

- 充電式なら本体バッテリーだけで一晩持つモデルもあり、ポータブル電源の残量を照明と通信に回せる
- 首振り+クリップ式を選ぶと、寝ている家族全員に風を配れる
- こんな人向け:南向き・最上階など、日中に部屋が蓄熱しやすい住戸。窓を開けられない台風時ほど差が出る
給水を「腕」ではなく「背中」で運ぶウォーターバッグ
最後がこれ。階段を上る前提なら、水は手で提げるのではなく背負うのが正解だった。リュック型の給水袋に切り替えてから、1往復あたりの運搬量が10リットルから16リットルに増えた。単純に往復回数が減る。

※なければリュックサックで代替すればよい
- 背負えるタイプは重心が体に近く、階段でも手すりを握れる。転倒リスクが下がる
- 使わないときは折りたたんで数百グラム。備蓄スペースをほぼ食わない
- こんな人向け:受水槽式のマンション(=停電で断水する建物)に住んでいる人。自分の建物がどちらか、管理規約か管理会社に一度確認してほしい
電源が尽きても情報が切れない、手回し対応ラジオ
そして最後の砦。ポータブル電源が切れたときのために、手回し・ソーラー充電に対応したラジオを1台だけ置いている。
停電中、いちばん不安だったのは「いつ復旧するか誰も教えてくれない」ことだった。SNSは電波が混んで繋がらず、地域のラジオだけが淡々と復旧見込みを流していた。

※なければ携帯式ラジオで代替する
- 手回し・ソーラー・乾電池の多重電源で、ポータブル電源が空になっても情報だけは切れない
- ライトとスマホ緊急充電を兼ねるモデルなら、防災リュックの中身をひとつ減らせる
- こんな人向け:ポータブル電源をまだ持っていない人の一台目。数千円で「情報・光・最低限の充電」を確保できるコスパは、防災グッズの中でも突出している
- ただし手回し充電の発電量は微々たるもの(数分回して通話数分ぶん程度)。あくまで最終手段と割り切ること
台風接近前、「何時までに何をやるか」の締め切り
道具を揃えても、使う準備をしていなければ意味がない。私は失敗してから、締め切りを決めた。
- 上陸24時間前:ポータブル電源とモバイルバッテリーを満充電。ベランダの物を全部室内へ
- 12時間前:浴槽に水を張る(生活用水)。冷蔵庫を強に設定し、保冷剤を作る
- 6時間前:スマホ全台を満充電。現金を用意(停電でキャッシュレスが止まる)
- 3時間前:エレベーターは止まる前提で、必要な買い出しを完了させる
最後の項目がいちばん大事だ。多くのマンションのエレベーターは、地震の管制運転だけでなく浸水検知や停電でも止まる。台風当日の夜に「牛乳を買い忘れた」と気づいても、もう14階だ。
よくある質問
マンションの停電で断水するのはなぜですか?
多くのマンションが、受水槽やポンプで各階へ水を押し上げる方式だからです。電気が止まればポンプも止まり、蛇口から水が出なくなります。低層階の一部で採用される直結直圧式なら停電でも水が出る場合があるので、自分の建物の給水方式を管理会社に確認しておくと備えの精度が上がります。
高層階のマンションに必要な防災グッズは戸建てと違いますか?
違います。最大の差は「階段での垂直移動」です。飲料水や食料の絶対量よりも、それを上げられる運搬手段(背負える給水袋・軽量カート)と、両手を空けるヘッドライト、断水時に機能する携帯トイレの優先度が跳ね上がります。
ポータブル電源はどのくらいの容量を選べばいいですか?
家庭の停電対策なら500〜1000Wh、迷うなら700Wh前後が扱いやすいです。扇風機・ルーター・照明・スマホ充電を一日以上まかなえて、重量は8kg前後に収まります。エアコンや電子レンジを動かしたい場合は1500Wh超が必要ですが、重量が15kgを超えて高層階では持ち運べません。
台風で停電したとき、エレベーターは使えますか?
原則、使えないと考えてください。停電で停止するほか、非常用発電機がある建物でも避難優先の運転になることがあります。復旧後も、専門業者による安全確認が済むまで再稼働しないケースが多く、うちは電気が戻ってからさらに数時間かかりました。
防災グッズは何日分を備えればいいですか?
一般的な目安は3日分、可能なら1週間分です。ただしマンション高層階では「量」より「上げられるか」がボトルネックになります。3日分を家に置いておくのは前提として、そのうえで運搬手段を1つ持っておくほうが実効性が高いと感じています。
どれから買うか迷ったら
全部を一度に揃える必要はない。順番はこうだ。
まだ何も持っていないなら、手回し対応ラジオと携帯トイレから。数千円で、情報とトイレという二大ボトルネックが埋まる。
次にヘッドライト。集合住宅なら、ランタンより先でいい。階段を使う可能性がある人には、これが効く。
余力があればポータブル電源とリュック型ウォーターバッグ。この2つが揃うと、停電の夜が「耐える時間」から「ちょっと不便な夜」に変わる。
14階の階段を6往復した日から、うちの防災リュックの中身は静かに入れ替わった。アルファ米は今も入っている。ただし、いちばん上には折りたたんだ給水袋が載っている。