⑤-3-7.「レインズ(不動産流通標準情報システム)」はなぜ形骸化したのか。不動産会社の元営業が見た“囲い込み”の実態~不動産特化ライター 杉山明熙 転記~

出典:https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_02042/ 2026年 09月29日

■売主の多くが知らないレインズの仕組み

家の売却を不動産会社に依頼すると、物件情報の多くは「レインズ」に登録される。レインズ(REINS)は、国土交通大臣が指定した不動産流通機構が運営する、不動産会社専用の物件情報ネットワークだ。

私が不動産会社で営業をしていたころ、客付(買主側の仲介)として毎朝レインズの新着物件を確認するのが日課だった。売主から家の売却を依頼され、元付(売主側の仲介)として物件を登録すれば、他社からの問合せが必ず入った。「広告に掲載してよいか」「案内は可能か」など、登録直後から他社が買主探しに動き出すのである。

売主が1社だけに売却を任せる「専属専任媒介契約」と「専任媒介契約」では、不動産会社にレインズへ物件を登録することが義務づけられている。登録の期限は媒介契約翌日から専属専任媒介は5日以内、専任媒介は7日以内だ(休業日を除く)。

売却を1社に任せるこれらの媒介契約では、その会社が情報を抱え込む(他社に物件情報を渡さない)と、他の不動産会社の顧客に物件が届かない。

そこでレインズへの物件登録を義務化し、全国の不動産会社が買主を探せる状態をつくった。レインズは本来、物件をより多くの購入希望者へ届け、適正な価格で売るための仕組みなのだ。

ところが、この仕組みを知る売主は少ない。私が売却の相談を受けた売主も、ほとんどがレインズについて知らなかった。レインズの仕組みを知らなければ、自分の物件が他社にどう紹介されているかを確かめる発想も生まれないだろう。

そして、売主から見えにくいこの領域でレインズが目的どおりに働いていない場面がある。その背景にあるのが、不動産会社の収益の仕組みだ。

■両手仲介の収益構造が「囲い込み」を生む

レインズが本来の役割を果たせない背景には、不動産会社が仲介手数料を受け取る構造にある。

仲介手数料は宅地建物取引業法で上限が定められており、売買価格が400万円を超える場合、仲介手数料の上限は「売買価格×3%+6万円(税別)」だ。売主側と買主側を別々の会社が仲介する「片手仲介」なら、各社は自社の顧客からのみ手数料を受け取る。一方、1社が双方を仲介する「両手仲介」であれば、売主と買主の両方から仲介手数料を受け取れる。

4,000万円の物件で試算すると、片手仲介の上限は税込138.6万円。両手仲介なら、同じ1件の取引で税込277.2万円の報酬となる。

この差は、営業担当者の給料にも直結する。多くの不動産会社では歩合制を採用しており、仲介手数料の金額で給料が決まる仕組みとなっている。私自身、同じ1件の取引でも、片手取引より両手取引のほうが給料への反映は大きかった。また、不動産会社のなかには仲介手数料の売上額で社員を表彰する会社もあり、表彰を目指して両手取引を狙う担当者もいたのではないだろうか。

「両手仲介」であれば、売主と買主の両方から仲介手数料を受け取れる

両手取引を優先する理由は、担当者個人だけでなく会社にもある。地域密着型の中小不動産会社は専任で扱う物件が少ない傾向にあり、数少ない専任物件で両手取引を狙う会社が多いのだ。ただし、囲い込みは企業規模の問題ではない。私の経験では、むしろ大手不動産会社のほうが囲い込みを行っているケースが多かった。

両手取引を意識した動きのなかには、法令に反しないものもある。例えば、売却依頼を受けた物件をレインズに登録する前に、自社の顧客へ先に紹介する営業手法だ。私自身、囲い込みには関わらなかったものの、法令内でこの動き方をした経験はある。紹介先は「新しい物件情報をいち早く知りたい」と事前に問合せてくれた顧客であったため、当時は当然の対応と考えていた。

ただし、売主から見れば、登録前の自社顧客への紹介も登録後の囲い込みも、自分の知らないところで行われている点に変わりはない。では、法令の範囲を超えた囲い込みでは、具体的に何が起きているのか。

■客付側の立場で見た「情報ブロック」の実態

囲い込みは、多くの場合「断る」「遅らせる」「後回しにする」の3つの形で起きることが多く、どれも表向きは正当な理由があるように見えるため、外から見抜くのは難しい。

客付として元付の不動産会社に物件を問合せたとき、「商談中です」「話が入っています」といって物件を自社顧客へ紹介させてもらえないことが多かった。このような返答は、売れ筋の物件や売り出したばかりの物件で特に多い。

ところが、その後もポータルサイトには同じ物件の広告が掲載され続けていたため、私は囲い込みだと感じていた。

本当に商談が進んでいれば、新たな購入希望者を集める広告を出し続ける必要はないだろう。

物件を紹介できても「売主の都合が合わなくて」などと言われ、内見の日程が数週間先まで取れず、成約に至らなかったケースもある。断られてはいないが、実質的には他社の顧客を遠ざける対応だ。

他にも、物件の図面や資料を他社に渡さず、顧客が検討を進められないようにする方法もある。中でも実際に被害を受けたのが、他社から入った購入申込より、元付の不動産会社自身が見つけた買主の申込を優先させる手口である。私の顧客の申込が後回しにされ、迷惑をかけてしまった経験もある。

囲い込みの影響を受けるのは、他社の買主だ。私の顧客の中にも、囲い込みによって欲しい物件が買えなかったために、住み替えのスケジュールが大きく遅れた人がいる。また、売主にとっても、知らないうちに購入希望者を減らされている状態だ。

囲い込みは確かな証拠が残りにくく、他社が疑いを持っても指摘しにくい問題である。

元付の不動産会社に「商談中です」と言われれば、客付側にはその真偽を確かめる手段がないためだ。イタンジ株式会社が2025年1月に発表した売買仲介会社205人へのアンケート調査でも、57.6%が囲い込みを「受けた」「受けたと感じた」「見聞きした」と回答し、そのうち66.1%が「特に何の対応もしなかった」と答えている。

【参照記事】2025年1月から処分対象となった不動産の「囲い込み」、およそ6割が「受けた」「見聞きした」経験あり

こうした状況を受けて、2025年1月に囲い込みに関するルールが改められた。

■2025年の規制強化で変わったポイントと残る課題

囲い込みへの対策として、2025年1月に宅地建物取引業法施行規則が改正され、レインズでの「ステータス」の登録が義務になった。ステータスとは、物件の今の取引状況を示す表示である。

ステータスを管理する機能自体は2016年からレインズに備わっていたが、法的な根拠はなく、登録するかどうかは不動産会社の判断に任されていた。

改正後は「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」の3つから実際の状況を登録する必要があり、実態と異なる登録は行政処分の対象となる。前章で紹介したような、実態のない「商談中」を装う対応は、明確に問題視されるようになったのだ。

レインズに物件を登録すると、売主には「登録証明書」が発行される。専用画面にログインするためのURLとID・パスワードが記載されており、2025年1月からは二次元コード(QRコード)も加わった。スマートフォンで読み取れば、自分の物件のステータスをその場で確認できる。2025年の改正によって、この画面に表示されるステータスが法令にもとづく情報になったのだ。

この改正によって、売主が囲い込みに気づく手がかりが以前より増えたと個人的に感じている。囲い込みをせずに営業してきた不動産会社にとっても、自社の誠実な販売活動を売主に示しやすくなったはずだ。

ただし、売主向けの確認画面に表示されるステータスは、一般の人にとって分かりにくい。囲い込みの存在や規制の内容を知らない売主にとって、不動産会社からの説明がなければ、自らステータスを確認する可能性は低い。その結果、これまで通り囲い込みが成立してしまう恐れがある。

規制が強化された点は、前進として評価したい。インターネット記事やSNSで規制の情報が広まれば、不動産会社の対応に注意を払う顧客も増えるはずだ。一方で、高齢の売主や新しい情報に触れる機会の少ない層には、規制の存在自体が届いていない可能性が高い。ステータスが実態と合っているかを第三者が確かめる仕組みもなく、この規制だけで囲い込みがなくなるとはいえないだろう。

■レインズが一般公開されない理由と透明化を進める方法

レインズの情報を誰もが見られるようにして認知度を高めれば、囲い込みは防げるかもしれない。しかし国土交通省は2024年の国会答弁で、レインズの登録内容には不動産会社が業務上知り得た秘密が含まれるため、利用を原則として守秘義務のある不動産会社に限っていると説明している。

実際、レインズの登録内容に任意売却である旨が明記された物件もある。中には不動産を売りに出している事実を隠したい売主もおり、このような情報をそのまま公開すれば、プライバシーを損なう恐れがある。

それでも私は、公開する情報を制限したうえであれば、一般公開も検討に値すると考えている。売主は第三者の目線で自分の物件の販売状況を確認でき、購入希望者にとっても元付の不動産会社に紹介を断られることが少なくなるだろう。

また、レインズの一般公開に踏み切らなくても、透明化を進める方法はある。例えば、他社からの問合せや内見依頼の件数・日時を、売主の確認画面に表示する仕組みがあれば、「公開中」なのに問合せがないなどの状況に売主自身が気付ける。不動産会社の報告だけに頼らず、販売状況を自分の目で判断できるようになるのだ。

■囲い込みを避けるための対策とは

囲い込みを確実に見抜く方法は売主にもない。だからこそ、売却を依頼する段階で「囲い込みをさせない」姿勢を示しておくのが有効である。

まずは、媒介契約を締結する際に「囲い込みが問題になっていると聞いた」などと、不動産会社に伝えておくのがおすすめだ。営業担当者に「この売主には囲い込みができない」と思わせるだけでも、一定の抑止力になるだろう。

そのうえで、レインズの登録証明書は必ず受け取ってほしい。

専属専任媒介・専任媒介の契約を締結した場合、

不動産会社には登録証明書を売主へ交付することが義務づけられている。

受け取ったら確認画面にログインし、ステータスが「公開中」になっているかを確かめよう。

誤解のないように付け加えると、両手仲介そのものは悪ではない。売主と買主を同じ担当者が仲介すれば、双方の要望をスムーズに伝えられるメリットもある。

問題なのは、売主の利益よりも両手仲介を優先することだ。

レインズが本来の役割を果たせば、売主は適正な価格で売却でき、買主は欲しい物件に出会える機会が広がる。

そのためには、制度のさらなる整備と、売主自身が販売状況に目を向ける意識が必要だ。

■「これって囲い込み?」売却中に感じた違和感と、その後にどう行動したのか。実体験をお話いただきます!【不動産売却 闇 囲い込み】

「これって囲い込み?」売却中に感じた違和感と、その後にどう行動したのか。実体験をお話いただきます!【不動産売却 闇 囲い込み】

出典:https://www.youtube.com/watch?v=uYejuhPLF7Q 不動産売却チャンネル