MR-1.築50年でも「あと100年超」もつ?鉄筋コンクリート造の寿命を調べてわかった驚きの事実《専門家に聞く「本当の老朽化」》~中川 寛子 東京情報堂代表 転記~

出典:https://toyokeizai.net/articles/-/959577 2026/10/02 東洋経済オンライン

【Google AI概要】

鉄筋コンクリート(RC)造の建物は、適切な設計とメンテナンスを行えば、物理的には築50年から「あと100年超(合計150年以上)」もつ可能性が十分にあります

東洋経済オンラインなどの調査や専門家の解説で判明した驚きの事実と、その背景を分かりやすく解説します。

1. 法定耐用年数(47年・50年)は「寿命」ではない

  • 税金計算のための数字:国税庁が定めるRC造の法定耐用年数(住宅47年、オフィス50年)は、あくまで「経費(減価償却)として計上できる期間」です。
  • 使えなくなる意味ではない:この期間を過ぎても、建物が直ちに壊れたり住めなくなったりするわけではありません。

2. 専門機関の調査で判明した「物理的寿命」

  • 100年超が多数:日本建築センター(BCJ)が既存のRC造建築物(平均築年数52.7年)を評価したところ、約65.9%(488棟中322棟)が「あと100年以上」もつという結果が出ました。
  • 計算上はさらに長期:計算上は、あと400〜500年程度もつと評価された建物も存在します。

3. なぜ「50年で建て替え」のイメージがあったのか?

  • 初期の配管トラブル:昔のマンションは、鉄製の給排水管をコンクリートの中に直接埋め込んでいました。
  • 修理の難しさ:配管を交換するために床や壁を壊す(はつる)大工事が必要となり、費用と手間がかかるため「建て替えたほうが早い」とされてきました。

4. これから長く住む・使うためのポイント

  • 建物の躯体(くたい)は長持ちする:コンクリートの骨組み自体は非常に頑丈です。
  • 経済的・機能的寿命への配慮:物理的には100年以上もつとしても、「設備古さ」「間取りの時代遅れ」「修繕コストの負担」などが原因で使われなくなることがあります。
  • これからの建築・管理:新築時やリフォーム時に、配管の交換やメンテナンスがしやすい(フレキシブルな)構造にしておくことが重要です

「鉄筋コンクリート造の耐用年数は?」と聞かれたら多くの人は47年あるいは50年と答えるだろう。役所関係の人なら70年という答えが出てくるかもしれない。だが、残念ながら3つとも間違っている。鉄筋コンクリート造(以下RC造)は物理的には100年単位でもつ。

2019年から2026年にかけて一般財団法人 日本建築センター(The Building Center of Japan、以下BCJ)が耐用年数を評価した488棟の既存RC造建築物のうち322棟(65.9%)の残存耐用年数は100年超だった。評価した建物の平均築年数は52.7年なので、建てられた時からの耐用年数は150年以上となる。

しかも「100年超」と数字を丸めているが、計算上はあと400~500年程度もつという評価が出たものもある。世の中でよく言われている耐用年数と実際の物理的な耐用年数には非常に大きな乖離がある。

これをどう考えればいいのか、BCJ参与・既存建築物技術審査部長の元木周二さんと神戸芸術工科大学学長の松村秀一さんに話を伺った。

■法定耐用年数は建物の物理的な寿命ではない

最初に47年、50年、70年という多くの人がRC造の耐用年数と考えている数字について。

47年、50年は国税庁の「主な減価償却資産の耐用年数表」によるもので、一般的に法定耐用年数と呼ばれる。47年は住宅、50年はオフィスのための年限である。

これを非常に雑に説明すると、事業者が購入後、47年間あるいは50年間は購入した額を毎年一定割合で必要経費として落とせるという意味で、それを過ぎると経費には算入できなくなる。だが、経費で落とせなくなるだけで法定耐用年数を超過したら使いものにならないという意味ではない。

それを理解するために他の減価償却資産を見てみよう。

たとえば耐用年数表では自転車、リヤカーが2年、冷暖房機器、冷蔵庫、洗濯機などが6年となっているが、実際問題、自転車が2年で、冷蔵庫が6年で使えなくなることはあまりない。

2年過ぎたから経費で落とせない、じゃあ、買い替えようと考える事業者はいるかもしれないが、法定耐用年数が過ぎた自転車は使えない、もう壊れていると考える事業者はいないだろう。

もうひとつの70年は公営住宅法施行令などに規定されている公共住宅の耐用年限で、このところ、たまに団地が売却されているのは耐用年限が過ぎたから使用中止という動きだ。

だが、こちらも法で定められた年限が過ぎたら物理的に使えなくなる、倒壊の危険があるわけではない。

たとえば静岡県静岡市にある日本最古のRC造団地のひとつ、静岡市営羽衣団地は1949年3月に竣工、2026年9月時点では築77年を超えているが、現在も現役だ。

築年数の問題から一時建て替えを考えたこともあったそうだが、他地域の同年代団地を調査する大学関係者から問い合わせを受けるなどで最高齢団地として注目を集めた。それを受けて2025年1月に耐用年数評価のための調査をした結果、コンクリート内部は至って健全。コンクリートの圧縮強度も十二分にあることが分かり、継続使用されることになった。

この調査を行ったのが冒頭に挙げたBCJである。

BCJは新しく開発された建築構法や設備、材料などに関する技術的評価を行う専門機関であり、建築関連の情報センターの役割を担う存在として1965年に活動を開始。2025年8月に設立60周年を迎えた歴史ある建築関係の専門家集団である。

静岡市の羽衣団地。開放的な立地で南向き。そうした立地も功を奏したのだろうか、コンクリートは至って健全だったそうだ(写真:筆者撮影)

内風呂が一般的ではない時代に建てられたため、居住者は地下の共同の風呂を利用した。その時代に建てられたものでも躯体はまだまだ使える(写真:筆者撮影)

羽衣団地の検査ではコンクリートにフェノールフタレインの溶液を噴霧、中性化を測定した。中性化していないアルカリ性の部分は赤紫色に変色し、中性化した部分は無色のまま。劣化が進んでいないことがわかった(写真:筆者撮影)

RC造内部の鉄が錆びて露出している状態。手で触るとぼろぼろと崩れた(写真:筆者撮影)

【あわせて読む】2026年1月の記事「築80年弱でずっと現役!日本最古の団地が移住者向けの入居募集を開始。まだまだ使える団地のすごさを見てきた」

■科学的アプローチによる評価、100年超もつ建物も多数

耐用年数評価が求められた背景には公共建築物の長寿命化を必要とする現実がある。

校舎や庁舎、公営住宅などの公共建築物の多くは戦後の高度経済成長期に集中的に建設された。当然、老朽化もほぼ同じタイミングで起きる。だが、それらすべての公共施設を解体、建て替える財力は人口、経済が縮小する日本には残されていない。

そこで政府のインフラ老朽化対策連絡会議は2013年に「インフラ長寿命化基本計画」を策定。2014年には総務省が全国の自治体に対し、学校や庁舎などの公共施設、道路などのインフラを一元的に管理する「公共施設等総合管理計画」の策定を要請した。

これを受けて各自治体で「長寿命化計画」の作成が本格化したのだが、そこで問題となったのは既存のRC造がいつまで使えるのかということ。あと何年もつかが分からなければ、「これからさらに何年使います、それでも安全です」という計画は立てられない。

ところが、それが分からない。それまでの日本ではRC造でも築50~60年で建て替えられることが多かったため、物理的にいつまでもつかを知る必要がなかった。法定耐用年数を物理的な耐用年数と言い換えても文句を言う人が少なかったのはそのためだ。

となれば、実際の劣化状況の調査を基に既存RC造の新たな評価方法を作るしかない。それがBCJが過去に評価した建物のデータや評価結果を分析し、2024年末に特許を取得したコンクリートの中性化に着目した耐用年数の予測法である。

「RC造のもっとも一般的、支配的な劣化要因はコンクリートの中性化。打設時には強アルカリだったコンクリートに大気中の二酸化炭素が侵入することで中性化が進行して鉄筋に到達、そこに水、酸素が供給されることで鉄筋が腐食し、腐食が外壁等の主要構造部に広範囲に広がることで構造耐力が低下していきます。

そこで評価ではコンクリートの外壁等から円筒形のサンプル(コア)を採取し、中性化深さを測定し、それらの分布の上位5%に相当する中性化速度係数を用いてコンクリートの法定かぶり厚さ30㎜に達する年数を調査時点から起算して求めた年数を耐用年数として評価することにしました」と元木さん。

2019年5月から評価業務を開始。2026年3月までに488棟の評価を行い、そのうちの65.9%が100年超という結果が出たことは冒頭で述べた通り。さらに評価の結果、外壁仕上げにモルタルを施工した建物は80.3%が100年超もつという意外な発見もあった。

「施工精度が低かった時代にはコンクリート表面の凸凹を解消するためにモルタルを20~30㎜塗って仕上げていました。モルタルは砂とセメント、水でできており、アルカリ性が強い。そのため、モルタルがコンクリートへの中性化を抑制してきたと考えられます。

ところが昭和50年代以降はモルタルはあまり塗られなくなり、コンクリートに直接、塗料で仕上げることが一般化し、中性化抑制は塗料のみに依存することになりました」(元木さん)

【再掲示】

羽衣団地の検査ではコンクリートにフェノールフタレインの溶液を噴霧、中性化を測定した。中性化していないアルカリ性の部分は赤紫色に変色し、中性化した部分は無色のまま。劣化が進んでいないことがわかった(写真:筆者撮影)

結果として施工精度の低さをカバーするためのモルタル仕上げが建物を守ってきたのだ。

一方、中性化に基づく耐用年数評価ができないとした結果も約1割ある。それらの大半はすでに中性化がかなり進行しており、残存耐用年数の推計が正の値にならないものだった。

その他には海砂を洗わずに生コンに投入、コンクリート内に大量に塩化物イオンが存在するケース、かぶり厚さ(*1)の不足、豆板(*2)や加水などの施工不良が多数あるケースなども。耐久性に問題がある建物も一定数あるわけだ。

(*1)かぶり厚さ:内部鉄筋を保護するためのコンクリートの厚さ。法定では30㎜
(*2)豆板:打設時に砂利が偏って表面に露出、すき間や空洞が多くなってしまった施工不良のこと

■コンクリートの中性化だけなら問題なし

残存耐用年数が評価上最短の20年未満という建物も35棟あったが、この評価が出たら20年後に建物が使えなくなるというわけではない。

「コンクリートの中性化が鉄筋に到達してもそこに水と酸素が供給されなければ鉄は錆びません。建物間仕切り壁などは非腐食環境とされますが、これは中性化が鉄筋に到達しても降雨等による水の供給がないためです。

また、仮に外壁であっても外側が鋼板などで覆われていて雨水がコンクリートに浸透しなければ問題にはなりません。数年前に築90年になっていた小学校の耐用年数評価をしましたが、外壁の中性化は進んでいたものの、コンクリートの含水率は2%台と低く、鉄筋は錆びていなかった。そこで外壁の防水性を高めておけば長期に使用できるという結論を出したこともあります」(元木さん)

コンクリートの中性化が劣化事象であることはよく知られているが「中性化が鉄筋に到達した=もうダメ」ではなく、そこから鉄筋腐食が進行するには水と酸素と時間が必要で、しかも水と酸素の供給はメンテナンスなどで止めることができる。適切に手を入れればコンクリートは半永久的にもつのである。

もともとが公共施設長寿命化に端を発しているだけに、評価した建物の8割以上は公共建築物。横浜市や坂戸市、さらには滋賀県や足立区、渋谷区のように耐用年数評価を自治体の計画に盛り込んだ例も出てきている。だが、民間での利用はまだ少ない。

「国交省の調査では築40年超のマンションはすでに100万戸超あり、今後も急増する見込み。一方で建て替えはなかなか進まない。となるとできるだけ長期に使い続ける、最終的には解体費用を積み立てて自力で解体するのが現実的と思います。長期に使い続けるためには適切な維持保存だけでなく、特に旧耐震なら耐震診断、必要に応じた耐震改修も必須。

ところが管理組合が耐震診断を考えても住民から耐用年数が近い、あるいは過ぎているからやっても無駄という反対意見が出ることが多いとか。これまで分譲マンションの評価実績は数件ありますが、管理組合が全額負担したのは1例だけ。

そのマンションは築35年。3回目の大規模修繕に加えて、各住戸排水管の漏水が多発、受水槽の耐震化も必要でした。その3大工事を同時実施すると修繕積立金が不足。居住者の高齢化が進んでおり、借り入れを避けるために修繕時期をずらして行うことができないか、その合意形成のために建物が何年もつかを知りたいということが評価依頼の背景でした。

幸い残存耐用年数が100年超との評価だったので、大工事の時期を分散させ、借り入れなしで実施できるとのことでした」(元木さん)

高経年マンションのこれからを考えるなら、建物の物理的な寿命を知ることは必須だろう。それが分かれば安心して長期計画が立てられるようになる。そうなれば耐震化を含め、改修により超長期に使用されるマンションも出てくるのではなかろうか。

■「建物の老朽化」という曖昧な言葉で片づけてはいけない

評価を積み重ねてきたことで分かった既存RC造の耐用年数の長さについて、松村さんは「築50年は大谷翔平」と評する。

私たちは犬、猫などの年齢を人間にしたら何歳という言い方をするが、建物の築年を人間の年齢に換算した場合、築50年はまだまだ若い。ホントのところ、築50年は大谷選手どころか、その子くらいかもしれない。

それだけもつなら再開発などによる建て替えは不要と考える人もいるだろうが、それはまた違う話だと松村さん。

「RC造の躯体は半永久的にもつとしても設備は100年もちません。そして今のオフィスビルは設備の割合が非常に高い。建物が全体で100円するとしたら、そのうち、設備は40~50円、コンクリートは15~20円という感じでしょうか。それを建て替えることには経済的な意味があり得るでしょう。

ところが古いビルでは設備が少なく、100円のうちの40円以下。学校などはほとんど設備がないので、躯体に問題がないのであれば使い続けるほうが合理的です。

このように建物を使い続けるのがいいか、更新するのがいいかは建物そのものの物理的な寿命以外にも建物の用途、使い方、経済的な合理性その他の要素も精査、検討すべきもの。ところが現状は建物が老朽化したという曖昧な一言で片づけようとする。そこに問題があり、ムダや反対も生まれているのではないでしょうか」

実際、建物自体には問題がなくても設備や間取り、使い勝手、立地が時代と合わなくなること、使い続けるためのコストが経済的に合わなくなることは十分あり得る。建物が長持ちするとしても全てが使い続けられるというわけではない。だが、少なくとも物理的には相当長くもつ可能性があるということを知っておけば、判断は変わってくるはずである。

■最低でも100年後の暮らしを想定した建築を

また、新築時にはこれだけもつことを知って作っていただきたいもの。

初期のマンションは給排水管(しかも鉄!)をコンクリートに埋め込んでいた。そのため、給排水管交換には床あるいは天井をはつる必要があり、大変な費用と手間がかかった。それなら建て替えたほうがいいとなったのも当然だが、これからは安易に建て替えられる時代ではない。

とすると新築時にはこれから最低でも100年後の暮らしを想定、維持保全やリノベ費用を抑制できるようフレキシブルに対応できる建物をつくる必要があろう。建築家やデベロッパーの皆さんには長期的な展望をもって建てていただきたいところだ。

【再掲示】

RC造内部の鉄が錆びて露出している状態。手で触るとぼろぼろと崩れた(写真:筆者撮影)